32 死出の山まいど、隣の十七才にばりなる娘が長病して死んでしまったと。そして家内が様々寄って来て、名前をうんと呼ばるごんだと。そんでもやっぱり死んでしまったから、黙っていたと。そしてうんと後になって、名前呼ばっても返事しねんだし、本当に死んでしまったもんだと思って諦めてはぁ、入棺さんなねべどて、寝っだ娘を、ぐいら起して、「ええか、起すぞ。どっこいしょ」 と言うたと。そしたればその女は、ホウと息ついて、ふうーと、夢から覚めたように生き返って来たと。そして生き返ってから、 「にしゃ、一ぺん死んだじだ。なじょなもんだっけ、死んだということは…」 と聞いたと。 「俺は長病して死んだ。そしたれば、死んで、何処さ行っても野原ばりで、いや広い野原で、そっちの方の野原さ行くとケシ畑があり、そっちゃ行くと、ボタン畑がいっぱいありで、いやすばらしいけと。そして行くに行ったところぁ丁度三途の川あっけぁ、そいつは広々とした石と砂ばりの綺麗な所で、水など僅かばり真中をチョロチョロ流っでだばりだっけ。あんまり花見してくたびっだもんだし、どっかりと尻掛けて、俺ぁいた。向う見たところぁ死出の山という山は、丁度富士山のような高い山だったけ。その下には鉄で拵えたすばらしいお城があって、そこに大きな赤鬼と青鬼が、鉄の棒ついで立っていたもんだっけ。そしてそいつさ聞いた。俺はここから川渡って行きたいんだげんど、と言うたら、いやいやまだお前は此処さ来てはならないのだ、と鉄の棒でぐっとこっちさ追払うようにさっだもんだっけ。そして誰か後ろの方で呼ばるようなもんだどて居たば、グィラ俺どこ起して、すばらしく大きい音で呼ばらっだもんだから、『はい』と返事したとき、息吹き返したんだ。んだから死んだなんて、そがえ切ないもんでないし、地獄さやられるなんていうもんでもない」 と、娘に聞いだったと。どーびんと。 |
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