29 盗人のいたずら

 まいど、うんと旦那衆いたったと。そんでも旦那衆だげんども、まいどなもんだから、お飯ばり食っては、中々食うものはつきるなんて、カイ餅(そば粉で練った餅)ざぁよくすっかったと。そしてカイ餅みんな食った残り、皆握って鍋の蓋さいっぱい作って、流しの棚さ上げて置くがったと。
 そこさ盗人が入ってきて、金をあざいて盗ったり、飯を食ったり、カイ餅食ったり、お汁飲んだり、酒呑んだりして、たらふく食ったと。そしてその盗人も、ちょっと盗(と)ったばっかりでなく、いたずらもしたくなったと。
「ようし、こりゃ俺は腹ほうず食ったし、盗るものはありだけ盗ったしすっから、…」
 と、旦那とオッカどこさ寝ったかと、そおっと行ったと。そしたば勝手さちゃんと寝っだげと。まいどの男というものは、みな髪結ってるもんだから、そいつをそっと解(ほど)いて、オッカも髪結ってるもんだから、髪をよく解いて、なじょなことしても解(と)かんねように、オッカと旦那の髪の毛をつないでしまったけと。そして、
「さて、こればりでは足りね」
 と、流しを見たば、カイ餅いっぱいあったから、そいつをゴシャゴシャとして、下女寝っだどさ行って、尻のあたりさ、カイ餅いっぱい置いたと。そして炉端さ来て、火をボォーと燃やして、
「火事だ、火事だ」
 と出はって行ったと、そうすっど、旦那も、火事だと言うんだし、台所は真赤になったんだし、消さんなねべし、起きんべと思ったげんど、頭引張らっで、
「なえだ、この女(へな)、他人(ひと)の頭つかんで引張っざぁない」
「なえだ親父、他人(ひと)の頭引張っざぁない」
 なんて、二人は髪つながっているもんだから、なじょにも取んなくて、喧嘩してる。それから下女を呼ばったってだ。
「あね、あね、台所の火消せまず」
 そして下女は起きんべと思ったら、尻さカイ餅一抱え(たがき)も置いてあるもんだから、
「むぐった、むぐった、俺ぁ動かんねはぁ」
 と言うたったと。盗人は外で大笑いしったったと。どーびんと。

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