21 五匹の犬こ

 うんと、まいど、お寺さまで犬こ一匹飼っていたっけと。こいつは夜廻りさせるためにだったと。女犬なもんだから、春さなって五匹の子産(な)したと。なじょなせいなんだか、四匹さはそれぞれに乳のませたり、寒い時には抱いて寝たりすっけんども、一匹の犬こさは乳もろくろくのませね、抱いても寝ないがったと。そしたば和尚さまはじめ寺の若衆から小僧めらから、言わっだと。
「なえだか、自分が産して、一匹さばり乳ものませない。抱いても寝ない」
 そしたばその犬はうんと痩せころげだったと。そして奇態なもんだどていたったと。そして少しもよって(経って)から、和尚さま、朝げ降りて来て、みんな朝飯食って寄った時、
「いやいや、にしゃだ。一匹ばり乳のませねなて、俺はとんでもない夢、昨夜(ゆんべな)見たった。その夢はこうだった。俺は元は遊び女で、五人の色男もっていだった。その内の一人は中々吝気で、ろくなもの呉れない。買ってもくれない。がってもない。あわいに(時に)吝気喧嘩して、人の頭などくらすけでいっかった。後の四人の男は似たように、物を買ってくれたり、食せたりして丁寧に扱ってやったと。そして俺はあんまりああいう商売もしたせいなんだか、犬に生まっだんだ。そして子産したんだ。その犬は四人の色男の子の方はこっちの犬の四匹だし、俺とこせめてばりいた男の子はこっちのだ。五人いたったので五匹の子が生まっだんだという夢だった。んだげんども、子犬の何代目かの子か分んねげんども、俺のつながりだから、その子ほしいなんて、犬もらいに来た夢だ」
 そしたら、皆もそいつと同じ夢見だったということだったと。そしていた所さ、外の人ぁ、
「こっちの家では、犬こいっぱい生まっだそうだから、一匹もらいたい」
 と、人は来たったと。五匹いたから、ええの呉てやっから持って行けと言うたら、一番の痩っだの、しびたれ犬みたいなのを、
「こいつええから…」
 ともらって行ったと。
「なして、こがえなええのや」
「おら家の先祖の子に当るなだから」
 と言うたと。それから和尚さまはその家を尋ねて行って聞いてみたと。そしたら、
「おら家の先祖というものは、こういう女さ迷って、五人の男もってた女だった。ほんで五人のうちの一人だげんども、俺はくらすけたり、たんとした男なもんだから、俺の代りに生っで来たのだべ。んだから俺がもらって来たんだ」
 と言うたと。人から生まれ代って、犬になっても、その魂ざぁ、やっぱり抜けねもんだけと。とーびんと。
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