30 猫の性まいど、一人暮しのばさまいたった。そしてそのばさまは大体身内の者を遠(とか)くさ遠くさと離して、本当に一人ぼっちでいるばさまだったと。そんでそのばさまは年寄って死んでしまったと。一戸構えなもんだから、組で世話さんなねべとて、組衆はみんな寄ったったと、そんでその内に年寄もいたったと。若衆はあんまり遠いもんだから、知らせに行ったのも来ないし、本人も来ないもんだから、退屈して、〈死んだ人さ、猫入(い)っでやっど、化けて出るという話だ〉と言うと、〈そっげなことあるもんでない〉〈いや、あるもんだど〉と、さんざん論して、「ほんじゃ、なえだ。物はためし、猫入っでみっか」 そうすっど、向うの家の年寄の人は、 「いやいや、昔から言ったものは、そがえに簡単に押しのける訳にはいかない。猫など入(い)んね方がええんだぜ」 と言うた。 「俺はそうして猫など入っでやって化けたの、話には聞いてる。ほんで入(い)んね方ええがんべ」 「馬鹿ばりつかして、年寄と釘の頭、引込んでいた方がええごで」 と、若衆言うので、 「ほんじゃ、若衆さみなおまかせだごではぁ、俺はこの世過ぎた人だからな」 と、その年寄は引込んでいたと。そうすっど若い衆は猫つれて来て、そのばさま、屏風の陰さ寝っだどこさ、猫入っでやったと。そしてみんな見ったところぁ、なえだかかえだか屏風の陰から上の方に人の頭みたいな、チョコチョコ出てくる。ほだかと思うと手なども出てくる。おかしいと行ってみたと。そしたら、ばさまムクムクと起き上って屏風から出はって来た。そこらうち家なかじゅう、おどり踊る恰好で騒いだと。そしたら若い衆は怖(おっか)なくなって、皆逃げ出したと。そうすっど年寄じじいは、 「こうなるということは俺は知ってたし、こうなった時は、どうすればええかも聞いてるし」 ものは試しと思って、家の前箒と家中箒と二本持って来て、猫を叩き、幽霊を叩きしたと。そしたればその幽霊はスウーッと死んだように腰落したと。そして猫も思い切ってひっぱだきつける。幽霊も元の姿にもどったと。 「俺は幽霊のどこ、しずめたから、早く元どおりにしろ」 と若い衆に言うたと。 「んだから、昔の喩(たとえ)というのは、喩に嘘なしと言うことあるもんだ。年寄なんて言うても、あんだだより知ってることあるのだから…」 と、それから若い衆も、年寄なんて、など言うて押っつけてばりいらんねもんだと、感心してあったと。どーびんと。 |
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(三) 目次へ |