28 団子どの

 むかし、じんつぁとばんさいたっけと。そんでじんつぁは朝げ早く起きっど神棚掃除して、庭掃いたりするのが定法だったと。ばんさは家の中のことするのだったと。
 ある朝、庭掃きしたところが、団子がころっと転んで来たと。そんで団子はころころころと面白いように転んで行くと。じんつぁも魂消てはぁ、団子さ追かけて行って、どこまでも転んで行くもんだから、
   団子どの団子どの、どこまでござる
 と、こう言うたら、
   宮の洞まで
 と言う。じんつぁも妙だと思ってかまわず追掛けたと。そしたらばかなり大きい穴があって、チョロッエッとそこさ落ちて行ったと。じんつぁもそこさ入って行ったと。そして入って行ったところぁ、土の中にすばらしい大きい地蔵さまがあったと。そこに地蔵が立っていて、団子転んで行ったのを見たば、土の中転んで行ったもんだから、土は泥ばりになったの、泥んどこぺろっと綺麗にむいて、泥のどこじんつぁ食って、中のええどこばり取って地蔵さまさ食(か)せたと。地蔵さま、うんと笑って、うれしがって食ったと。そして地蔵さまは、
「俺ぁ膝かぶさ上がれ、まず」
「俺は地蔵さまの膝かぶさなど上らんね、勿体なくて…」
「いやいや、ええから上がれ」
 あんまり言うもんだからじんつぁも上がって見たと。
「じんつぁじんつぁ、今度ぁ肩さも上がってみろ」
「肩さなんて上らんね、地蔵さま」
「いや、ええから上ってみろ」
 そうすっど、じんつぁ上がって見たと。今度は頭の上さあがれと言うと。
「頭さなんて上がられんまいちゃ。地蔵さま罰当んべちゃえ」
「いや罰なの当んね、頭の上さあがっど梁の上さちょいと上がられっから…」
 と言うもんだから、頭の上さ上がったと。そして梁の上さ上がると、
「じんつぁ、今になぁ、青鬼など赤鬼などいっぱい来て、ここでバクチ打ちすっから、そんどきええ加減なった頃、ニワトリの真似してみろ。ニワトリの真似すっど鬼共は〈夜明けたから、昼間こがえしていっど他人にせめられっから行かんなねはぁ〉と、銭など皆ぶん投げて行くから…。銭置いて行ったの、皆あんださ呉(け)っから…」
 と言わっだと。
 夜さなったば、そっちから二人、こっちから三人、鬼共がいっぱい寄って来てバクチ打ちをはじめたと。そして、シェイ・シェイなんてバクチしったと。ここらでええかなと思って、じんつぁは、
   トトケロー・コー
 とニワトリの真似したと。鬼共らは、
「一番トリだ、一番トリではまだ大したことない」
 その内に二番トリも鳴いた。三番トリも鳴いた。ところが今度は明るくなったからと、何もかまわないで、鬼共逃げて行ったと。地蔵さまは、
「じじ、じじ、ここさ置いて行った銭、皆あんださ呉(け)っから…」
 じんつぁはカマスさ入っで背負って家さ来たと。そしたば、隣の火貰いばば来て、
「なえだ、こっちの家は福しいこと、なにしてこがえに金もうけて来たんだ」
「ほだ、こういう訳で…」
 と、ぺろっと教えたんだと。
「ほんじゃ、おらえのじんつぁもそいつさやんなね、こがえ金もうけになっこんだら、おらえのじんつぁどこ、すぐにやる」
 なんて、ばば行って、じんつぁも、
「隣のじじは家の前掃きして団子転ばしてやったど…」
 なんて言うたげんど、家の前掃きなどしたことないじんつぁなもんだから、団子など出ようないんだし、ばば、不恰好なことに拵えて呉(け)たと。そして家の前掃きなどしたげんども、団子などさっぱり転ばねんだし、箒などで押っつけたり、杖棒などで押っつけたりしたげんども、あんまり恰好悪いもんだから中々転ばねがったと。そして仕方ないんだから、
   団子どの団子どの どこまでごさる
 なんて言うたげんども、そいつさ返事もしないでいたったと。杖棒でかっ転ばし、かっ転ばし行ったところが、穴あっけと。あんまり不恰好なもんだから、穴さ入(はい)んなくて、杖棒でビリビリ押っつけてやったと。そしてじじも無理無理その穴さ入って行ったところぁ、やっぱり地蔵さまあっけと。
「なえだって、隣のじさま、こうしたというもの」
 と、団子の泥ばりのとこ地蔵さまの口さなど塗って、地蔵さまさっぱり食いもしないでいる。自分は泥のつかねとこ食ったと。
「隣のじさまの真似さんなねんだな、こりゃ」
 なんて、膝かぶの上さなど、ヒョコッとあがってみたり、肩の上から頭の上さ上がって、梁さ登ったと。
 そしたば夜さなって鬼どら来て、いっぱいバクチ打ち始めたと。バクチ打ち始めて、
「なえだって、早くニワトリの真似すっど、野郎べら早く行くべから、早く銭もらって行けるから」
 と、バクチ始めたばりで、
   トトケロコー エヘヘヘ
 なんて言うたと。言うた拍子に屁などプウなんて、むぐったと。
「なんだ、今夜のニワトリは寸法なく早いばかりでなく、笑ったり、屁たっだり、こげなニワトリいるかい」
「なんだかな、俺は聞いたこともない」
 そしたば、二番トリの真似して、また同じようなこと言うたと。
「なえだか、おかしないようだな」
 今度三番トリの真似したと。やっぱり同じこと言うたもんだから、鬼どら、
「何だかかえだか、今日のは、人であんまいな。匂いは人だな。笑ったり屁たっだりは、ニワトリはするもんでない。人臭いから、まずここら家探ししてみたらええがんべ」
 と、梁の上まで鬼どら、皆上がって来たと。そしていたところぁ、じんつぁばりすくなんて(すくんで)いたっけと。そしてじんつぁどこ、引っ取り落してみんなで食って、俺手一本食うか、俺足一本食うか、と食って、金玉ばり残して、
「こいつは、こん臭(くさ)くて食んね」
 なんて食ねがったと。
 そうすっどばさま、夜明けてもじんつぁ来っざないんだし、何しったどて行ってみたと。そしたばじんつぁぺろっと食(か)っで、金玉ばり残しったけど。そしたら、ばば、
「いやいや、じんつぁ、なじょな事になったんだか知らないげんども、ぺろっと食(か)っで、金玉だけ残ってた」
 そして、ばんさその金玉ばり持って来て、お湯沸して、お湯くぐらせて、ゆでて黄粉(きなこ)はたいて、ぺろっと黄粉つけて、
   こいつぁ、ばばぁの食いもんだ
   こいつぁ、ばばぁの食いもんだ
 なんて、ばばぁ、ぺろっと食ったけと。どーびんと。

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