23 小便くらべある旦那衆にアネコと兄ンにゃコがいたったと。そんで小便たれる度に、兄ンにゃなどいたずらしして、あちこちさ引っ掛けたりしているがったと。旦那は無暗にこいつをおどしてもおかしない(変だ)から、何かうまい方法で教えんなねと思って、「アネコと兄ンにゃ、ちょっと来て見ろ、先ず。あんただ、小便たれは好者なようだ。何か出ないもんだか?」 と言うたと。兄ンにゃは、 「俺は日本一の芸する。何と言うても俺は小便はまず、ポンプの代りになるし、霧降り滝のようなものから、裏から見っど裏見ケ滝から、白糸の滝から何でもできる。それから歩きながら、道に人の名前なども書けるから、筆の代りにもなる」 「そうか、こいつも御褒美呉(け)らんなねごでな」 と旦那は言うたと。 「アネコはなじょだ」 「兄ンにゃより、俺のはまだ達者だ。俺のは、日本一の地理学者と言わっだもんだ。俺の小便は…」 「なじょなこと垂れっこと」 「いや、旦那さまもよく聞いておくやい。一番はじめには、〝奥州(おうしゅう)―〟 とたれっこで。それから出羽(でわ)出羽出羽と。その次にはずうっと上の方さ行って、備(び)備備備、備中。その次には北海道さ行って、北見・北見・北見・北見とだごで」 「中々お前のも達者だな。一ぺん聞くと大体分っから、今度はそういうことはしないように」 「ほんじゃ、旦那さま、御褒美くれるべ」 と、もらったと。 「そういう小便たれの噂はあまりしないことにするべ」 と旦那は言うたと。どーびんと。 |
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(三) 目次へ |