15 火除け鍬

 米沢のカクボウという家の信仰でもあったんだが、カクボウという家は、まいど庄屋だったと。その家の婆んさは、稼ぎ好きで稼ぎ好きで、稼ぐことは先ず一年中稼がね日などないがったと。
 そんで夏の土用の朝暑(あた)かいとき、宥日さまが大石峠から杉沢の一里塚さ降りて行ったと。そしたらば、道の側に草ぶきのどこで、ポコラポコラしったけと。宥日さま、
「ばんさ、ばんさ、何しった」
「いやいや、俺も今、ソバ蒔きの節なもんだから、暑(あた)かいげんどもソバ蒔きしったどこだ」
「あんだ家は相当な家だそうだ。そがえに稼がねったてええでねえか」
「いやいや、俺はそがえ稼ぎたいざぁないげんども、自分があずけらっだ土地なもんだし、なんぼか綺麗にしておかないじと、お天道さまの罰あたる。ソバなんても、こげなとこさ蒔いても、うまくなど穫られねげんども、一粒蒔いて二粒は穫れんべ、一粒は種子代に返して、一粒は俺の稼ぎ駄賃だごで」
 宥日さまは黙って考えっだけぁ、
「ほんじゃれば、こがえ暑(あた)かいもの、涼しい日、通りのええ楽な鍬呉れっか」
 と、宥日さま、袂から鍬出してくれたと。そいつもらって来たとこぁ、さっぱり暑(あた)かくない。涼しくって鍬はすっすっと通るもんだった。
 そし稼いでそのばさま死ぬ頃に、丁度隣近所さ大火事が始まった。そんでぐるりはぺろっと焼けたげんど、火ぼい一つ、カクボウという家さは来ねがったと。
「奇態なもんだ。あがえ家(や)混(こ)みなとこで、ぐるりは焼けてんのに、あの家さ火ぼい一つ来ね、これは奇態だ」
 と、いろいろ考えてみたところが、宥日さまからもらった鍬は、お天道さまの陽除けだけでなく、火除けの鍬でもあったと。それからこの鍬は宝物だとして、床の間さ飾ってあると。とーびんと。

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