7 井戸に落ちた雷

 まいどで夏の暑かいとき、にわかに空が曇って来て、雷はうんと鳴ったと。そしているうちに、
「雷、おち申したんねが…」
 なんて、そこの親父が出はって行ったところが、丁度自分の裏の深い井戸さ雷様、ダーッと落ちて行って、雷さまあんまり太っといもんだし、太鼓などいっぱいつけて、虎の皮の褌など掛けてるもんだから、上らんねくて、うんと困っていだったと。そしたらばその親父は、
「お雷さま、お雷さま、俺ぁ手伝いすっからな」
 と、井戸さその人も入って行って、お雷さまどこに、ソクッと上げて呉(け)たと。そしたばそのお雷さま、また天さ帰っどき、
「あんだは中々親切な男だ。こがえな深い井戸さなど入ってだれば、上がらんねぐなっからなんて入って助けて呉(け)る人なのあるもんでない。あんだあんまり親切だから、俺は呪(まじな)いを教えて行く、俺は雷だから、かまわず悪いことした人さ落ちんのだから、何処さ落ちねざぁない。今日などは井戸さも落ちっだげども、俺は決して落ちないことにしておくのは、あんだのここの殿様、桑原さまと言う殿様は、うんとお恵みして、ええ殿様だから決して桑原さまの屋敷さだけは、なじょしても落ちないから、若し俺が鳴って困っどきだと、桑原桑原と言うて蚊帳さ入って寝てござれ」
 と言うて行ったと。それから雷なると『桑原桑原』とみんなも言うことになったんだと。
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