4 死んで生きて来た人

 まいど、おぼこ産(な)すようになって、明日出っか、明後日(あさって)出っかなていた女いたったと。そんでその女はおぼこ産さないで、ポイッと死んでしまったと。そしたば、後夫(ごで)は、
「なんだって、今迄あんがえまめまめして、いま三日四日で出るおぼこの顔(つら)ばり見たいもんだとなぁ」
 と、棺さ中々いたましくて入れらんねがったと。
「死人など、汚ない。この夏の暑いときなど一日(ひして)だって家の中さ置かれるもんでない。あんだ三日も四日も自分の寝床さ、そんがえして置くなんて何のごんだ」
 と言うもんだから、息子も、なるほどそう言われればそういうもんだと思って、棺を背負って行って、寺の軒場さ置いて行ったと。そしたらば、何だかかんだか、棺の中でガタガタと言うもんだから、その棺を蓋をとって見たところぁ、ちゃんと生き返っていたと。そして見たところ、何だかおぼこ泣くような音する。そして見たら赤子なんだし、「なんだ」と言ったら、その女ぁ、
「俺は丁度冥途さ行ったんだげんども、もどって来たんだ。腹の子供になにかかにか言われるような気して、ちょっと目が覚めてみたら、俺ぁ箱さ入れらっで、この寺の軒場さ置がっだのだっけ。そんで今、おぼこも生まっではぁ、いだもんだし、すっから、ガダガダとなるもの、そしてそのおぼこ取上げてみたらば、右の手、ギッチリ握っていた。なえだこのおぼこはお開きなんてしているのもいるげども、お握りといって両方の手握っているのもいっけんども、片方の手ばり握ってるなんて、おかしい」
 なんて、そしてその親父もその手を丁寧に開けてみたとこ、唄よみ書かっていた紙切れ掴んで生まっで来たと。そして、その紙切れ見たらば、
  闇の夜に 鳴かぬからすの声聞けば
   生まれぬ先の父ぞ恋しき
 と書かっていたと。
「なえだ、生まれぬ先の父ぞ恋しき、なんて、ツベトベも合わないこと書いてよこしたもんだなあ」
 なんて言うったと。そしたばおぼこもそのオカタも、今度は本当に、ポィッと死んでしまったけと。とーびんと。

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