2 おたけ大日如来まいど、越後の山奥さ旦那衆の家あったと。そいつは旦那様などうんと旦那衆だげんど、ねっぴな旦那様で、自分ばりうまいもの食って、自分ばりええもの着て、「にしゃだなの、ええごで」 なんていう調子だったと。そうしたば、そこさ御飯(おまま)炊き、他家(よそ)から頼まっで来たおたけと言うのいたったと。そのおたけは、毎日旦那様だダッ様(奥様)だ食った後、おたけが食うのを別にとって、そのおたけと言うのは決して食(か)ねがったと。そして、なしてと言うと、おたけと言うのは未(ひつじ)の歳生れでお大日様が一代神だったと。それで一代神の信心のために、自分の食うものを皆三つずつのヤキメシに握って、流しの鼻先さ、お大日様の縁の下から拾って来た石一つ置いて、その傍さ紙の札の小っちゃこいの二枚ずつ置いて、そいつさぺろっとそのヤキメシ上げて置いっだもんだと。そしておたけはお経などは達者ではあんまいげんど、お大日様の御詠歌などあげたと。 陽のめぐみ 罪とがの雪消え果てて あまねく照らす みすやなるらん その後さ御呪文を毎日あげて、そいつ終っど、女なもんだから淡島さまさも信心していたと。 そしてヤキメシを何すっかと思うと、女奴(やっこ)なのおぼこなどつれて時々来るもんだから、そいつを一つずつ呉(け)っかったと。それからあわいに(時には)魚などあるのも奴さ呉(け)たと。そして自分が何食っていたかと思うと、鍋洗ったり釜すすいだりすっど、その下さ、ぼっこれ笊置いておっかったと。そしてその笊の飯ばっかり食っていっかったと。 段々年取ったもんだから、おたけは死んだと。死んだもんだから、三途の川からエンマ王の門口さ行ったと。そしたば、赤鬼と青鬼がいたと。エンマ王に、 「お前はまだここさ来るのでない」 と、鉄の棒で背中など、腹などグイグイと押っつけらっで、「帰れ帰れ」と言わっだと。そしたば、 「俺はここまで来たんだもの、俺の旦那やダッ様が俺よか早く死んだんだ、んで今なじょしていっか、俺さちょっとそいつ見せてもらいたい」 と言うたと。 「ほんじゃれば仕方ないごで…」 と、門あけて見せたと。そんで、 「ここないだべ」 と聞いたところぁ、金の蓮華の座であって上から天蓋さがって立派などこだったと。 「ここはお前が本当に死んだときのお前の座だ」 と。それから、 「ほんじゃ、旦那さまとダッ様は何処さいたべ」 と言うたところが、焦熱地獄・餓鬼道地獄さいて、まるで火の中こがせらっだり、んだかと思うと水も呑ませらんね、飯(まま)も食せらんね、本当にヘタヘタという姿だったと。そしたれば、あんまり前に厄介になった旦那だったもんだから、エンマ王さ願ったと。 「いやいや、まだお前は来らんねのだから、ここさ来てお前の口(場所)がないのだから、すぐに帰れ」 と、鉄の棒でグイグイと押さっだと。そして生き返って来てみたら、その時ポイッと目覚めたけと。そして生き返って来て、 「なえだか、俺は箱さなど入って、ギュンギュンと痛いもんだ」 と、頭など撫でてみたところァ、丸坊主になっていたと。 「んでは俺は元のばさまなどにはなれねのだ、尼さまになる他ない」 と、寺の仏壇の前さ立っていたっけと。そしたらば小僧っ子べら一杯来て、女は頭剃ったのが仏壇の前さ立っていたから、魂消てたまげてはぁ、逃げて行って、和尚さまさ話したところが、 「いや、ここはそういう者の扱いところだから、恐れてなのいらんない。俺ァ行ってそのこと聞いてみんべ」 と行って聞いてみたれば、そういうこと語ったんだけと。そして、 「お前は生き返って来たごんだれば、頭も剃っているんだしすっから、尼さまになって人の為につくして呉れたらええんねが」 と言わっで、自分もその気になってその寺に厄介になったと。そして占ってもらうと何でも当るんだし、流行(はや)って流行って仕様ないほど流行(はや)っかったと。病気とか縁談など皆当っかったと。そんで皆もって来てくれんのを、 「俺は大勢の人から御土産はあるのだから、決してもって来ないで呉(け)ろ、奴(やっこ)来たら奴さ、食うべくない子供らさ皆分けて呉れっど、俺はあんただの聞きたいこと何でも教えっから、決して持って来ないで…」 と言うたと。みんなもそのつもりになっていた。そしておたけは本当の寿命が来て、その寺で逝くなった。そしたら、大日如来さまを祀って、 「大日様信仰してこうなったのだから、お大日様を寺の境内に建てて…」 と、大日様を建ててくれたと。そしてそれをみんな信仰して、大変流行る神様になったと。んだから他人さざァ、めぐまれる限りはめぐんでいんなねもんだと。また自分で食われっから俺は何でもええなんて、自分ばりええことしていっど、地獄さやらっで様々せめられるもんだと。悪いことざァするもんでないけどなァ。どーびんと。 |
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