1 瓜姫子と天邪鬼

 「瓜作んべ。なえだて隣の家あたりで作るババ瓜というのは気に合った瓜だ。ほんに丸々と美しくて仏様さなど上げっこんだらなんぼか喜ぶべから、ババ瓜作りすんべ。婆ァ」
 なんて、
「ええごでなァ、あんださえもええごんだらええごでなァ」
 そしてババ瓜の種子蒔いたところァ、いや、すばらしい大きくなって、西瓜みたいにおがったけと。うまいがんべと思ってもいで来て、
「ばば、ばば、ババ瓜もいで来たぜ」
「ほう。大きいごど、ほに」
 そして婆ァ持(たが)って見たところが、パカッと真中から割っだけと。そして中から、いやいや、やさしい、めんごい女の子ァ生ったけと。
「じんつァ、じんつァ、まず瓜食うどこでない。おらだ子無しでこうして居っじだげんど、ほんに天の授かりだ、ほに。この瓜からこんがえめんごい赤子(おぼこ)出たぜ」
 爺(じん)じもわらわらと寄って来て、
「ほう、めんごいこと…」
「なんて名付けたらええがんべ」
「ほだな、こいつ瓜から生まっだんだもの、瓜姫子とでも名付けたらええんねが、ええがんべな」
 なんて、毎日、荒砥の町さ行ってお魚(とと)買って来て、そして毎日小豆御飯炊いて食せたと。そしておがってやさしい娘になったもんだから、
「ばんさ、ばんさ、俺ァ機織ってみたい」
 と、こう言うたと。
「機など織られっか」
「おら、織ってみたくて織ってみたくて仕方ない」
「ほんじゃ、ええごで」
 なんて、機買って来て、機織させたと。そしたら、
  トントンカラリン・トンカラリン
 というがったと。そして毎日織ってたと。
 ばんさとじんつぁ、町さ行って、用あったほでに、
「瓜姫子、今日、おらだ町さ行ってくっから、ここには天邪鬼という悪いものいたから、決して機織ってたの見せろなて言うたて、戸ざァ開けてなんねえぞ」
 そして、瓜姫子は、
  トントンカラリン・トンカラリン
 なんて一生懸命に織っていたら、天邪鬼来たと。
「瓜姫子、おれ、機織りざァ見たことない、機織見せねが」
「いや、俺はじんさとばんさに何べんも言わっじゃんだ。決して戸を開けてはなんねえぞ、誰ァ来ても…」
「ほんじゃて、開けてなんてでなくても、小指一本入るほど開けてみせねが」
「見せらんねじ」
 そして見せろ見せろと何べんも言うもんだから、本当に小指入るほど開けてみせたと。そしたば、天邪鬼は見っだっけ、
「瓜姫子、あんだ、俺の親指入るくらい開けて呉れねえか」
「そがえ、嫌(や)んだじ」
「いや、ええごで、小指一本入るくらい開けてみたもの、親指入るくらいなんて、大したことないもの見せろ」
 して、ミリミリ言うもんだから、瓜姫子は親指一本ぐらい開けたと。そしたところァ、天邪鬼の野郎は手首までガサッと入っで、ミリミリと戸ァぼっこれる程も関わねで、開けて入って来たと。そして瓜姫子を殺してしまってはァ、瓜姫子の衣裳など着て、こじらね(知らぬ)ふりして機織っていたと。
 じんつぁは、町から帰って来たと。
「瓜姫子は今日は一人で織ってだべな、一人ばりで退屈だべほに」
 そしたら、
  ギーコ・バダン
 なんていう音する。機織ァめったにない音立てるもんだな。天気のせいでもあんべ、なんて、ばばと入って来たところァ、丁度家の前さ、鳥ァ大変にさわぐ。そして鳥は、
  瓜姫子の織り機さ
  天邪鬼はぶちのって
  ギーコ・バダン
 なんて言う。「鳥は、一体におかしなこと鳴くもんだな」と思っていたら、また、
  瓜姫子の織り機さ
  天邪鬼はぶちのって
  ギーコ・バダン
 なんて啼く。今度は機織り場さ行ってみた。そしたば、瓜姫子はいなくて天邪鬼は瓜姫子の衣裳など着て織っていたんだけと。そうすっど、じじとばば、むごさいという、ごしゃげっどいう、
「こんなもの退治してしまわんなね」
 と、裏さ行って、木割りする斧(まさかり)持って来らんなねどて行ったら、縁の下さ、瓜姫子は殺さっで、縁の下さ押(お)つけらっでだっけど。ばばは流しから菜切り包丁持って行って、二人で天邪鬼どこ殺してしまったけどはァ。そして天邪鬼の手二本もいで、
「こいつァ家のソバ畑でも、ぶん投げて来い」
 と、そいつぶん投げて来たけと。それから足二本、ひった切って、
「あいつ、向うの萱野さでもぶん投げて来い」
 と、萱野さぶん投げて来たと。そうしたら、天邪鬼の血で、今でも萱の根っことソバの根っこざァ赤いもんだごてなァ。どーびんと。

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