11 屁たれ茂平次荒砥の大立目遠江守の家来に、屁たれ茂平次という足軽がいたったと。こいつはあんまり屁たれるもんだから、「屁たれ茂平次」と言わっだと。米沢から見廻りの役人が来たったと。そんで今夜十時頃なもんだから、その家さ来て、今晩(こんばん)わという代りに、「茂平次!!」 と、こう言うたと。そうしたらば、すばらしい大きい屁、 「ぶーう」 とたっだと。また「茂平次」と言うたらば、「ぶーう」とたっだと。おかしい野郎だと思って、 「茂平次!」 と言うたところが、また屁をたっだと。今度は役人もごしゃっぱらげて、戸をガラガラ開けて、入って来たと。 「なんだ貴様、米沢からわざわざ来たというに、屁で挨拶ざァ、どういう訳だ」 と言うから、 「俺は、何か達者ということはある。剣道達者もあれば、学問達者もある。さまざまだ。俺は屁が一番達者なので、屁たれ茂平次という仇名まで付けらっだ…」 「そんな馬鹿なことあるもんでない。そうだれば御役人に対して詫状出せ」 と、こう言わっだ。そん時書いた詫状は、 〈大屁、小屁、スイラン屁までたれ申し候。右屁の詫状、かくの如く御座候〉 屁たれ茂平次 米沢藩屁役人様 と書いて、役人さ出した。 「屁たれ茂平次ざァええげんど、屁役人様ざァ、そんな無調法な話はない」 「いやいや、屁で詫状書いたのは初めてだ。んだから、ことに屁役人様と書いたんだ」 「はァ…」 そんで茂平次は、 「御役人様、こういうこと知ったか。屁をたれれば三つの得がある。第一に、気が晴れる。第二には腹が空(す)きるということ、第三には、穴のほとりの塵がはらえるという、三つの得があるのだぜ」 とかと、言うたと。 「それから、俺は、屁は達者だから、屁の軽業(かるわざ)をして御質に入れる」 と、こう言うた。軽業というのは綱渡りとか、梯子というのが持前だから、先に梯子の芸からと、 「三間梯子の立木二本!」 〝ブーッ・ブーッ〟 「これは立木だ。今度は三間梯子に十六本の肢(こ)があるから…」 〝プ・プ・プ・プ…〟 と、十六を細かくたれた。 「これが梯子の芸当だ」 そしたら役人が、 「なえだ。随分屁くさいもんだな」 と言うた。茂平次は、 「これくらい離っでいて匂いする、俺の方はさっぱり匂いしない」 と、こう言うた。 「ほんじゃらば、これは屁の綱渡りという芸当だ。どっちも軽業だ」 と言うたれば、御役人も大変面白い野郎だと思ったんだが、 音はすれども 姿は見えぬ ほんにお前は 屁のようだ と言う歌を詠んで、詫状など忘っで行ったと。 |
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