60 時庭の六本仏むかし、旅の六部がいたったと。そして時庭さ来て、晩方なもんだから、女のとこさ泊めてもらいたいと言うたと。その女はおさよと言うがったと。そしたらば心よく泊めてくれたと。その日は、時庭は田どこだから、稲刈仕舞いで、親父は、 「昼から俺ばり行って決まったから、俺はソバ好きだから、ソバ打って煮て置け」 と言うて行ったと。そんで今度、六部も上がっとすぐに、お仏様と言うてお経をあげて炉端さ来たと。そしていろいろ物語りするうちに、 「お前がそんなに立派な体持ってて、六部など大抵体の弱いものとか、どこか悩みのあるものがなるもんだ。何か心に悪いとか、体に悪いとこあんのだか」 と聞かっだ。 「とんでもない。それは丸っきり反対だ。俺は体があんまり良すぎるために、六尺も体はある。目方も二十何貫もある。そんで俺のオカタになってくれる都合のええものはいないもんだから、まず六十六ケ国も廻るうちに、俺のオカタになってくれる人があればええ、それを念(ねが)いとして、六部して歩くんだ」 そんで、おさよは、こう言うたと。 「俺は昔の年寄に聞いっだ。そんなことは試したことも何もないげんど、なんぼ大きな男だとしても…」 と言うたと。六部も大変喜んで、 「そうか」 「そんじゃれば、俺も六部さんを信仰したつもりで抱かれてみます」 そして、六部とおさよが寝てるうちに、親父が入って来たと。親父が厩(うまや)の口に草を降ろしていた。ところが先庭に一尺二寸もあるワラジがある。そして見たれば錫杖もある。 「おかしいもんだな」 と思って見たれば、おさよと大きな男が寝てるのが目についた。 「なんぼ怒ったって、こんなとこさムシャムシャと入っては…」 と、また錠口まで引返して、錠口から空咳で咳ばらいをはらったと。そうすれば六部も良心の呵責から、何もかも投げて、ワラジを履き錫杖ついて、何処(どさ)かふっとんで行ったと。そうすっど親父(ごで)が入って来て、 「今の男は、どういう訳だった」 と聞くと、一部始終話したところが、 「お前もこれくらい同情するのは、ええげんど、それまで俺は許しておかなかった。そんで俺はこういう難題がある。俺には千刈の田を旦那から小作してるんだ。そんでその難題を考えるんなら、千刈の田を呉れると、年貢米を持って行く度に旦那に言われる。それは一升桝に二升の水を入れるにはどうするかという問題だ。ほんで、お前はお前の体さあの大男相手にするような頭あっこんだら、一升桝さ二升の水入れるなどは大したことあるまい。そんで、そういうこと考えてみろ」 と言わっだ。 「もし、それをお前が考えらんねごんだら、伝家の宝刀をもって来て、すぐにぶった切ってしまう」 と、こういうたと。そして床ノ間から宝刀を持って来て、抜いて待っていたと。おさよは、どうせうまく行かないと思ったが、一升桝もって来てやってみた。なんぼうしても入んねがったと。 「俺が思ったとおり、俺はぶった切ってやる」 と言うて、ぶった切ってしまったと。そして田ンぼの土手さ埋めてしまったと。 その翌年の盆の十三日の盂蘭盆会のときに、知らねふりして、六部は旅者みたいな恰好で来て、聞いたと。 「何かここらに珍らしい話ないもんだか」 と、三番草取りしった兄ンにゃの煙草しったのに聞いたと。 「いやいや、丁度、去年の今よりは遅くなってから、稲刈り時に、こういう事あった」 「はあ、何だって、ぶった切ったもんだ。何処に埋めたもんだ」 「小(ち)っちゃこいな石あるな。そいつが墓だ」 そうすっど、六部は、 「いやいや、そいつは気の毒だ。俺のためにそんなことになった。ほんじゃれば、そいつを供養しなくちゃなんねえ」 そっちこっち廻って歩くから、御領和田村には御領石のさまざま転び石もあっから、あそこさ行って、石を拾って来て、誰も目に付かないうちに七本仏を立てんべと思ったと。そんで一本拾って来ては、「ナムホウシ如来」、二本拾って来ては「ナムトホウ如来」、三本拾って来ては「ナムミョウゼシン如来」、四本拾って来ては「カンロヨウ如来」、五本拾っては「リスイリ如来」、六本目は「コウハシン如来」までは立てたげんど、七本目の「オミトウ如来」を背負って、宮内村まで来たところは、朝げの早い人は草刈りなど、ぼつぼつ出る人があったと。 「いやいや、こんじゃ、人目については、とにかくこんなことやっていらんね」 と、宮内さぶんなげた「オミトウ如来」は宮内に立てたと。ほんで、時庭のは六本仏だけだったと。とーびんと。 |
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