46 泰山と雲仙

 まいど、泰山という和尚と雲仙という和尚がいたったと。その二人が雲水の時から、友達なもんだから、諸国修行の頃のことだったと。
 雲仙が一足先に宿寺から出て行ったと。そうしたれば、川一つあったと。そこさ行ったら、若い女がジンダン跳みしったと。
「何しった?」
 と言うたら、
「母が癪のために苦しんで苦しんでいるもんで、今薬買いに行って来た。そうしている内に、にわかな大雨で大水でとっても漕がんね。どうか俺を背負(おぶ)って、この川を越して呉(け)ねか」
 と言うたと。そうすっど雲仙は、
「俺は修行の身であって、女禁制だから、それは絶対に行かない。そんなことしてあんだを背負ったりすると、破戒僧になって、今迄の修行が水の泡になっから、俺は、それはまかりならない」
 と言って、自分ばり錫杖をついて、その川を越したと。
 一足遅っで来たのは泰山という和尚だった。また女は同じこと語ってお願いしたと。そうすっど泰山は、
「ああ、そうか、そんじゃお前は裸になれ、大事な薬ぬらしてはなんにもなんね。裸になって薬を皆着物さくるめ」
 そして着物さくるんで、女を背負ったその女の頭の上さ薬を結(ゆ)っけたと。そうすっど先に行った雲仙が、
「野郎のことだから、ものは簡単に片付ける野郎だ。確かに、願われれば背負うに相違ない」
 と思って、川の向うの薮さかくれて、体中耳にしたり眼にしたりして見ておったと。そうしたところが、真裸にして背負ってあがった。
「よし、此処まで着いたならば、すぐに破戒の僧として、戒を破ったことになっから、お前のとこ此処から追返(ぼっかえ)してやる」
 と、大威張りでいたと。そうしたれば泰山もやがて着いて、その女の体をわらわら拭いて呉(け)て、
「さっさと行って、介抱しろ」
 と言うてやったと。そうすっど、ひょこっと出て来て、
「なんだ貴様、女に触った破戒の僧だから、帰れ」
 と、そう言うと。そんとき、泰山は、
「ははァ、女であったか、俺は世に哀れな孝行な娘であったと思って、女とは思わね」
 と言うたと。
「……」
「そんなこと言うて、俺ァどうすっかなんて、こんな薮に隠っでいるような貴様だれば、貴様こそ破戒の僧だ。一日一善というのは、おらだの修行の身で、何かかにかええことさんなねのだ。今日は寸法ないええことしたと、いたんだ」
 と言うた。そんで雲仙という和尚は負けてそのままになったと。とーびんと。
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