42 桑原桑原

 むかし、桑原という浪人侍が、これは体も小さいし、いたって腕前も弱い侍だったと。それから大川というのは、六尺もある何でも達者な侍だったと。
 あるとき、桑原と大川が行き会ったもんだから、大川に、
「今日は、俺と真剣勝負しろ」
 と言わっだと。真剣勝負などして、とても大川にかないそうないもんだから、うんと、
「俺は分んねから、真剣勝負しない」
 と言うたげんども、しろしろと言わっで、あんまり言われたもんだから、武士たる者はそんがえ薦めらっで、どこまでも尻込みなどしていらんねという訳で、仕方なく刀抜いてしたったと。そして戦ったところが、桑原の刀が根本からポキンと折(おだ)れてしまったと。そうすっど、腕もないのさ、刀も折(おだ)れてしまったものだから、手を合せて、
「なじょにもしておくやい」
 と願ったと。そうしたれば、大川というのは、うんと長い刀をまっこうにのし上げて、なじょにも切って見せんべという恰好しったったと。そうしたれば、にわかに雷さま鳴ってきて、雨は降って来る、ピカピカ光る。
 そうしたところが、大川の刀さ思い切って雷さま落ったと。そうして桑原というのは殺さんねでそのまま生きたと。
 ほんじゃから、雷さま鳴っとき、「桑原桑原」というもんだけと。とーびんと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(一) 目次へ