39 物識りじんつぁうんと物識りじんつぁで、何でも知ってるじんつぁだったそうだ。そして大勢の人行って、「あのじんつぁさ行って、なにかに聞いて来た方がええ、そしておらだも面白いことしてみろい」 と、聞き行ったと。 「じんつぁ、じんつぁ、鴨とりする秘伝知らねか」 「知った、知った。鴨ぐらい雑作なくとられるものはない。あんだ家に鎌あっか?」 「鎌、ある」 「ほんじゃな、薄氷があの沼さ張ったとき行って、米五合も持って行って、沼中振っこんだ。そうすっど、鴨はいっぱい来て、米を喰いっこしてる内に、氷(しが)がガリガリ感じて薄氷がうんと厚氷になる。そんとき、あんだだも渡られんだから、鎌もって草刈するように、バンバンと皆刈るごんだ。そうすっど、鴨はコロコロと転げて、氷の上に鴨ばりになっこで。んだから十匹二十匹なんていうもんでなくて、いた鴨みな獲られっこで」 「……」 「そん時はリヤカーでも持って行って、箒でも持って行って集めて来(こ)んなねごで」 と言うたと。 「ほんじゃ、兎とり知ったかい、じんつぁ」 「うーん、知った知った。兎とり雑作ないもんだ」 「なじょしてやい」 「この向いの山には兎はよくいっから、遊び行ってみろ。兎の姿見えたらば、思い切って、『兎・兎』と言え。そうすっど、兎は返事などしないげんども、兎の耳ざァ長いので、キクキクと、どっちの方に人いたべなと、うんと判断力があるもんだ。俺ァ方さ来る時だと、小(ち)っちゃく『ウサギ』と言え、反対に向うの方へ行くときだと、かえってか大きい音立てて、『兎!!』と言え、そうすっど、音大きいから、こっちに人いたなと、先の方さまた来る。こっちの自分の方さピョコピョコ来た時には『ウサギ』と言うとええ。こっちには人はいない。人はずっと遠くなったからええなァと、つまりそういうことにやってると、丁度目の前さ兎来る。その時、ちょっと抱いて来るものよ」 と言うと。 「ほんじゃ面白いな。そいつァ面白い」 「ほんじゃ、じんつぁ、キジとりよう知らねかい」 「キジとりなど、まだ雑作ない。キジというものは、大体卵十二粒産すというもんだ。親子づれで歩くと十四匹いるもんだ。そいつ、親子ともども十四匹とるには、先ず十四・五尺の針金買って来んなねごで、細(ほそ)こいの。そいつさ豆を一尺おきに一つずつキリで孔あけて通さんなね。そして針金の片方ば木さギリギリギリとつないでおくと、先に来たキジは豆をちょいと食って、次の豆食いたいから、ビリビリと進んで行く。そうすっど尻から出て行く。そいつ追掛け追掛け、段々出て行ったの食い、出て行ったの食い、先のはもっと食いたいからかまわず前さずうずうと行くもんだと。十四匹が一つなぎの針金さつながったときに、ひょいと元と先をつないで背負って来るものよ。こんがえ雑作ないものない」 「ほんじゃ、じんつぁ、雀とり知ったかい」 「知った。知った。雀は雑作ない。春先、巣作っだくて、屋根の上さ随分来るもんだ。そしていっぱい来たとき、あんだ家には酒あんべァ」 「酒、ある」 「焼酎だと、かえってええげんど、お飯一杯ぐらいさ、焼酎ぶっかけて、なま火に乾して、そいつ箕さ入って広げて屋根の上さあげて置くこんだ。そうすっど、雀は来てお飯なもんだから、そっちなのを一粒食い、二粒食いしている。その内、酒しもっているもんだから、酔えてよえて屋根の上からゴロゴロと、なでこけるほど落っで来る。雨落ちさ雪降ろしたほど雀はたまっこで。そいつをコマザラエというのを持って行って、雨落ちをザァーッと寄せて来ると、タガラ一つ、カマス一つなど、唯一時(いつとき)にとられっこで。そがえ雑作ねのないもんだ」 と言うたけと。とーびんと。 |
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