36 団子の露

 まいど、仙台の伊達侯様は夏負けして、殿様は暑(あた)かいときは負けて負けて仕様ないがったと。そんで、ある医者さまに、
「夏まけの薬ないもんだか」
 と、聞いたところが、
「その夏まけの薬だら、オベベの露は一番に薬になる」
 と、こう言わっだと。そうしたところが、家老職さ、
「オベベの露集めて来い」
 と言うたと。そん時、侍というのは、やっぱり団子の木の露なんど知らないもんだから、
「若い女子衆の露だ」
 と、思ったと。そんで十三才から三十才までの女全部集まれと、全部集めたと。そんとき宮城原さいっぱいだったと。そして片っぱしからオベベの露集めたれば、五升樽さ三つか四つあったと。今度は殿さまに褒められんべと、家老方も思っていたったと。
 夏なもんだから、持って行ったものの匂いがひどくて、薬どころか、かえってひどかったと。
 その頃、百姓さ、殿さまは使いをやって、
「一体、オベベの露というのは何だ」
 と、聞いたら、
「団子の木の赤い露だ」
 と、教えらったと。そして殿さまであるくせに百姓も知ること知らねということ馬鹿だ、と、家老はうんとおんつぁっだ(怒られた)と。
 んだから、偉い人だって何もかにも知ってるというもんではないがったと。とーびんと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(一) 目次へ