23 夢と餅

 むかしあったと。村に三人兄弟いだったと。一番上の兄(あ)ンにゃは一平、二番子は二太郎、三番目は三之助と名付(つ)かったのだったと。何も芸はなくて、仕事すんのもやんだくていたったと。
 お正月の二日に、荒砥の清水屋さ行ったところが、持(たが)かんねような大きな餅もらったと。たった一つばっかりなもんだから、分けて食うようもないんだし、晩方頃だったし、お深山(しんざん)に奴(やっこ)宿(やど)があったから、そこさ泊ったと。そして、
「今夜、初夢の日だから、一番いい夢みた人ァ、この餅食うこと、と決めたらええがんべ」
 と、三人で語り合って決めたと。
 三人が早く眠(ねぶ)って、早くええ夢見て、餅食ってやんべとて、てんで(それぞれ)に寝てしまった。一番兄も二番兄もぐうぐう眠って、三番目は、
「とにかく夢など見られっか、見らんねが分ったもんでないから、餅はちゃんと食って始末して、それから眠んべ」
 と思って、みんな眠るばっかり待ってたと。みんなぐうぐうと鼾かいているうちに、ありだけ餅食ってしまったと。いや腹くっちい。ある刻限が来て、一番兄は、二番三番子を起して、
「俺ァ、日本一ええ夢見た。冨士山の峯さ上がって、茄子もぎしたどこァ、鷹が飛んで来て、俺の襟頸くわえて、俺どこみな鷹ァ食ってしまった夢で、一冨士・二鷹・三茄子びと言うァ、俺ァ日本一ええ夢見たぞ」
 と言うたと。
 二番目の番になって、
「俺ァ夢はそれよりええ、今日一番ええ夢見た人は餅食うことと言うから、俺だな。荒砥の清水屋さ行ったところが、こげな大きな餅を貰って、餅食え、餅食えと言わっで、いいや、腹くっちいにも腹くっちいにも、うと我慢して、目覚ました」
三番目は餅食ってしまっていた。それはどういう訳かと言うと、
「兄貴は冨士山の峯さ上がって鷹にさらわっで、食わっでしまって死んでしまったし、二番兄は清水屋から大餅もらって、腹ほうず(一杯)食っているもんだから、早く起きて、お前、たった一つ貰った餅食った方がええという神さまの夢で、起きて食ってしまったところだ」
 と言うたと。
 賢いのにはかなわないという話だったと。とーびんと。
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