20 一生(升)飯

 うんと稼ぎたくなくて、美味いものばり食いたくていた兄ンにゃいたったと。それから舎弟の方は稼いで稼いで、倹約で、美味いものなど食わないで、親孝行な舎弟いたったと。そして親父病気したとき、財産も宝物もいっぱいあったと。
「お前(にしゃ)、一生飯食(か)れるようなことに、俺が見た者さ、宝物一切を呉れる」
 と言うたと。
 そうすっど、兄は、親父が見っだ前で、米櫃から山秤一升量って、そいつを炊いて、ぺろっと食って動くにも動かんねし、一日寝っだと。舎弟の方はすぐに出はって行って、人手もないもんだから、一生懸命稼いで、そして自分が持った小遣いで、親父もこれで一生だかも知んねから、と美味いもの買って食せたと。「お前(にしゃ)、今日何して来た」
 と、こう言ったところが、
「俺、あそこの畑、あんまり荒れっから、ありだけ草抜いて、俺は前に貰った小遣いも使わないの持っていたったから、そいつでじんつぁさ買って来たどこだ」
 と言うたと。
「兄は何しったと?」
「俺は、親父、一升飯食うごんだら、食(か)れるようなもんだれば、宝物くれると言うもんだから、山秤一升ぺろっと炊いて、ぺろっと食って、いや切なくて切なくて、日っきり寝てた」
 と言うたと。
「んだから、俺は一升飯確かに食ったもの、舎弟は、はっげな(そんな)畑の始末などしたって、一升飯食ったなんて、ないでさ」
 と、兄は言うた。こんど親父は、
「馬鹿ばりつかして。一生飯ざァ、桝さ一升でなくて、これから五十年とか七十年、何不自由なく食れるように、働く者という意味だ。ほんじゃ、舎弟の方さ、俺の財産みな呉れる」
 と、呉れたと。
 んだから、どんずやって(横着して)は分んねもんだっけと。稼がれるだけ稼がんなねもんだと。とーびんと。
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