17 家庭はよい人だけで満足するか わるい人ばかりで満足するかあるところに二軒の家があった。一軒は家内喧嘩が絶えないかったと。朝から寝るまで毎日のように、「お前(にしゃ)、馬鹿!」だの「俺ァ偉いもんだ」なんて「俺は賢こいげんど、お前意気地ない」なんて、そんげな喧嘩ばりしっかったと。片一方ではさっぱり喧嘩などしなかったと。 そんで、あんまり喧嘩すると、隣の親父は行って、時々仲裁してくれっかったと。 「いやいや、俺の家で、年中(のんべ)、馬鹿だのズグ(阿呆)だのって喧嘩ばりしている。隣の親父に仲裁さっで、なじょかして隣の家も何かで俺ァ仲裁しに行きたいもんだ」 と言うたと。 あるとき、隣の家で牛(べこ)一匹飼っていたと。牛はマセはずして隣屋敷を食い廻ったと。 「ようし、あの牛、まだまだ荒(あら)気(け)て、家内大喧嘩になる。喧嘩になったら俺ァ仲裁に行く」 と、待ち構えっだと。そして夜になったげんど、何の音もない。あんまり物足らないから、行ってみたと。 「こっちの家では牛逃げだったんねが」 「逃げだった」 「なして逃げだんだ。誰わるいごんだ」 と聞いたと。そしたば、息子言うには、 「俺は、実は、こういう用あって、草でも一杯刈って置けば、牛など逃げない。腹減って逃げだんだ」 そうかと思うと、今度は、 「草などより、女衆はミゴシズとったの、いっぱい飲ませておけば、決して逃げなかった。あいつは俺ァわるいのだ」 今度、親父は、何というかと思ったら、 「牛小屋どさ行って見たげんど、マセの楔ぬけっだの、気付かないで来た。あいつ気付いて刺しておけばええがったげども、俺ァそこまで行って、俺ァ意気地ないのだ」 と旦那は言うし、 「俺ァ悪いのよ」 と、わるいのいっそうで、さっぱり喧嘩になんねがったと。 |
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