10 南山の馬鹿聟

 オカタの家さ、自分が用達しに行ったと。そしたらば、
「おら家では、めったにない客来たから、団子するところだから、団子を…」
 と、団子拵えて食せらっだと。そしたらば、団子うんと美味かったと言うのだな。
「いや、こがえ美味いもの食ったことないし、おら家では拵う様も知らねし、団子という名前だけでも憶えて行って、言えば何とかかんとか、こっちの家から貰ったオカタだから、拵うべから…」
 と、団子・団子と一足毎に語って家さ戻ったと。途中に、跳ねられるぐらいの川あったと。そしてそこに来て、
「団子団子、団子」
 と、来たげんども、やっと思い切って、
「どっこいしょ」
 と跳ねたと。それから〈団子団子〉を忘れて、
「どっこいしょ、どっこいしょ」
 と家さ帰ったと。家さ帰るより早く、
「こりゃこりゃ、どっこいしょ拵えろ」
 と、こう言ったと。
「どっこいしょ、どっこいしょなんてあっか、そんなものあんまいちゃえ(あるもんでない)」
「あんまいちゃえ、なて、お前の家さ行って食って来たもの、確かにある。拵えてみろ」
 と言うた。
「んだって、知らねもの拵わんね」
「んじゃ、お前、馬鹿ヘナ(女)」
 とて、鉤(かぎ)を思い切って放(ぶ)ってやった。そしたら額さ、こんげなコブが出た。
「団子みたいなコブ出た」
 とオカタ、泣いっだった。
「ああ、その団子だった。ほに」
 と、馬鹿聟が言うたったと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(一) 目次へ