9 寝太郎

 むかし、村に寝太郎いたったと。寝太郎は寝てばりいたげんど、頭はええがったと。
 家さ、猫一匹飼ってだっけと。
 正月になっても、どんずやり(横着)だから、餅も搗かねがったと。寝太郎は考えて猫の毛さ赤い紅(べに)つけて、隣の金持の家の猫くぐりさ、ちょろいっと入れてやったと。そしたれば猫は腹減ってるもんだから、伸(の)し餅しったのに、ありったけ舐めたと。そしたら、餅はみな真赤になってしまったと。
 そして次の日、起されてみたら、餅が真赤になってしまったもんだから、金持の家では畑さ餅をみなぶん投げてしまったと。その畑ぁ寝太郎の畑だったと。そして寝太郎が起きてみたところァ、餅赤くなったのいっぱいあるもんだから、
「ああ、俺の計略はうまく行ったな。猫さ紅つけてやったもんだから、猫ァありったけ腹減らかして、舐めたに違いない」
 と言うて、それを寝太郎は畑からもって来て食ったと。
 それを食った後、また考えて正月の十五日に、地蔵さまの杉の木の上さ、提灯に〈天照皇大神宮〉と書いて、灯(あかし)を点けておいたと。そして寝太郎は木のテッペンさ登って、隣の金持の佐左衛門家(え)に向って、
「佐左衛門、佐左衛門」
 と言うたと。したれば佐左衛門はびっくりして起きてみたら、地蔵さまの杉の木のテッペンさ、〈天照皇大神宮〉と書いた提灯があったので、手を合せて拝んだところが、
「此処の土地には寝太郎という者がいるそうだ。今は食うにも食(か)んねくて困っているもんだがら、酒と肴・餅・薪(たきもの)を明日の朝げ、いっぱい持って行かないと、お前の家は焼けてしまうぞ」
 と言うたと。
 そうすっど、佐左衛門は本気して、次の朝げに奉公人にみんな持たせて、焼けるにはましたもんだと、寝太郎どさ呉れて来たっけと。とうびんと。
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