8 火種もらった嫁

 むかし、あるどこさ嫁さん来たっけと。
「正月の年取りの晩は、おらえの家では火ァ消さね家だ」
 と、姑から言(や)っだと。嫁は根っこくべて燃(も)やしったと。んだげんど、寝ずの番だったが、昼間働いてなもんだから、嫁は眠(ね)ぶけさして、とろとろっと眠ると、火もとろとろっと燃えて、火種も無くなってしまったと。
 ほんで、仕方(しゃ)なくって考え余り、外さ小便足(た)れに出っど、向うの方から提灯点けて来た人いたと。その人の来んのを待っていて、火種を貰おうとしてっど、その人は真白の衣裳着て、棺を背負っていだったと。さびしいもさびしいげんど、責任はあるし、和尚さまみたいでもあったから、聞いてみたと。
「火呉(く)れんななど構(かま)わね、火呉れんなの代り、この棺貰ってもらわんなね」
 と言わっだと。仕様(しよ)ないもんだから、棺も貰って、背負って提灯借りて来たったと。ほんで家さそっと入って、棺を自分の長持ちさ片付けて、棺をすぽっと隠しったけと。そして提灯から火を移して炉さ火焚いて、知(し)しゃねっぷりしていたと。
 お正月礼に、四日の日に行って来いと言わっだげんど、嫁は、
「お正月礼に行かね」
 と言うたと。
「来たばっかりなのに、お正月礼に行かねなて…」
「俺の代りに、お前ばり行って来てけろ」
 と聟さ言うたと。聟も奇態で仕様ないくて、何だのかんだのせめてみっど、
「実は、その開き棺は俺の長持さ入った」
 と言うたと。そう言わってみたので、長持出して来て見たところが、中から出て来たのは、金銀綾錦の着物一そろい、そくっと入っていたったと。
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