４　狸(むじな)むかし

　まいど（むかし）、じんつぁがいたっけと。焼畑(かの)を一杯作っているじんつぁが、豆蒔きしったと。
「一粒蒔いたら千なれ、二粒蒔いても千なれ、三粒蒔いても千なれ」
　と、毎日豆蒔きしったと。そしたば、木の棒杭(ぼっくい)の切口さ、狸来て、
「一粒蒔いたら腐されろ、二粒蒔いても腐れろ、じじァ蒔いた豆皆腐れろ」
　と、毎日悪態して語っと。そうすっど、じじい怒って鍬持って行って、追掛けたと。そしたば狸尻まぐた（尻もちついた）かして、じじいに獲らっでしまったと。そして今度それを縛って家さ夜上りしたと。それで、
「ばば、ばば、今日は俺ばこんな馬鹿にする狸とったから、晩に、今日山さ俺はまた豆蒔きに行って来るから、俺来るまでこの狸を料理して、晩は狸汁だ、ばば」
　と言うたと。そして狸どこ吊して置(お)いったもんだから、じじいは居ないんだし、狸はそん時ばばが粟搗きしって、トカエン・トカエンとこわい（疲れた）ような格好してたから、
「ばば、ばば、俺どこ、こいつ解いてさえも呉れっこんだら、そがえ粟なら、ただ一時(いっとき)で搗いて呉れる」
　そうすっど、ばばは本気して解いて呉れたと。ところが杵を持って粟搗きどころか、ばばを殺してしまって、ばばの衣裳そっくり着て、袖無しまでばばのを着ていたと。そしてばばを殺して、ばばを料理して、じさまどこさ御馳走に出したと。そうすっどじさま、
「なえだ、ばば。今日の狸は。狸は何べんか食ったことあるげんど、今日ぐらい撓(しなこ)い狸食ったことない」
　と言うたと。そん時、狸は小馬鹿にしてしまい、
「しないも道理、ばばのペッペのかたんした」
　と言うたと。そうすっど、じじいは何だか可笑しげなこと言うと思って、
「何だ、ばば」
　と言うと、また繰返して言うたと。
「いや、ほんじゃ、こいつは、ばばでなくて、ばばどこ殺して、俺さ食せた狸だな」
　と、思って追掛けたと。そして狸なもんだから猫くぐりとこから出はって行くべと思ったところが、袖無し着てるもんだから、猫くぐりの角さつっかえって、とうとう逃げらんねがったと。そこをじじいは叩いて殺してしまったと。
　んだから人など殺すと、俺も殺されるものだから、人など決して殺すもんでないど。
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