3 かちかち山

 むかし、おじいさんとおばあさんがいたったと。おじいさんは毎日山さ開墾に行ってだっけと。ところが昼間近くなっど、どこからか狸が来て、根っこさ腰かけて、じさまが、
「一粒蒔いたら千なれ、二粒蒔いたら二千なれ」
 と、一生懸命掘っては穴をあけ、掘っては穴をあけ蒔いっだら、狸ァ、
「一粒蒔いたら腐れっされろ、二粒蒔いたら腐っされろ」
 と悪態語っこんだと。じさまは棒を持(たが)って、追掛っけんども、狸はなかなか早いもんだから獲りぱぐってしまうがったと。ごしゃげるんだし(癪にさわる)、何とかしてあの狸畜生獲っだいもんだと思うごんだと。
 次の日もまた行って豆蒔きしてっど、また狸が何処かから来て、いたずら語っことだと。じさまは家さ帰って来て、
「ばば、ばば、毎日狸の畜生来て、俺どこいたずら語る。何とかして獲ってやらんなねと思うげんど…」
「そんなの造作ない」
 と言うて、おばあさんがこう教えたと。
「町さ行って、モッチ(鳥餅)でっつり(いっぱい)買って来い。毎日狸が尻かける根っこさ塗っておくとええ」
 おじいさんは早速根っこさモッチ塗っておいっだと。
 次の日、また狸が来たと。
「また来たな。畜生、今日獲って呉(け)るぞ」
 そしてまた、
「一粒蒔いたら千なれ、二粒蒔いたら二千なれ」
 と言うたら、狸はドサーッと腰かけて、
「一粒蒔いたら腐れっされろ、二粒蒔いたら腐されろ」
 と、始めたと。鍬持って行ってひっぱだきつけたと。狸は動かんねぐなって、とうとう捕まったと。その狸を家さ持って来て、晩げの狸汁にすんべと思って、ぶら下げて置いたと。息子に、
「隣さ行って、鍋借りて来い」
 と、騒いでいるうちに、狸は本性を出して、おばあさんば一生懸命になってだましたと。
「どうか生命だけ助けて呉(け)ろ、何でもおばあさんの言うこと聞くから、縄ほどいて呉(け)ろ」
「じさま帰って来たら、俺ばりせめられっから、そげなことされない」
 したれども、とうとう頼まれて縄をほどいてしまったと。そうすっど、
「じじのために、俺ァこがえにこどい目に会った。ばばを殺さんなね」
 と、おばあさんを噛み殺して逃げて行ってしまったと。おじいさんが帰ったところ、おばあさんが死んで、狸ァいないんだし、狸汁どこでない。荼毘(だみ)出し(葬式)さんなねくなったと。その荼毘のとき、兎が見舞いに来て、
「何しったまず」
 と聞いたので、
「こういう訳で、ばばぁ殺さっでしまった」
 と答えると、
「ほんじゃ、仇とってくれらんなね」
「なじょすっこと」
「明日、山さ行って狸どこ、ひっ捕えて仇とってける」
 と言うもんだから、おじいさんは兎に頼んだと。
 次の日、兎が柴刈りに行くと、狸も来たので、
「一背負いとったら、一緒に帰えんべな」
 と話し掛け、一背負いすっど、
「俺はのろいから、後だ」
 と、兎が言って、狸を先に立てて後から兎が来たと。ええ頃加減のとき、火打ち石を出してカチカチして、柴さ火付けたと。狸は、
「火の燃える音、するんねが」
 と言うと、兎が、
「んなえ、何かの音だべ」
 と騙しったと。
「いや、なんだか火ァ燃える音するず」
 と言うと、兎も初めて気付いたふりして、
「んだほに、火がついた、火ァ燃える」
 と言うたもんだから、狸はどんどんと走ったので、ぼうぼうと燃えては、火傷(やけぱた)して家さコンコンと逃げて行ったと。そうすっど、そこさ兎が、
「火傷(やけぱた)の薬、火傷の薬」
 と、南蛮粉の薬をふれて行ったと。
「ああ、ええ薬屋来た。一つ買って付けてみんべ」
 と、買ってつけてみたら、今度は熱くて痛くて泣き出したと。
「いま少しすっど、痛みは止まっから」
 と、騙さっで我慢しったと。とても我慢さんねがったと。
「ほんでは、かなり重傷なんだ。海さ行って洗った方がええ」
 と言うので、「そうしんべ」と言うて、兎と一緒に浜辺さ行って、狸さ泥で慥えた舟さのせ、自分は木の舟にのって、
「いま少し沖さ行ってから、洗うとええ」
 と、言うたところが、泥の舟ァ溶けて海さ沈んでしまったと。とーびんと。
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