43 彦市ばなし― かくれみの―ある岡に天狗さま出て、ほしてかくれみの着てきてはぁ、人の酒ひったぐったり、あるいは油揚げひったぐったりして、狐並な悪れごとする。天狗さまなて言うど、ええ事ばりすると思ったら、そうでもない。とんでもない天狗さま居た。ほの天狗さま退治するには、何言うても、あのかくれみの取ってしまわなくては嘘だていうわけで、一策を案じた。 彦市がそこさ、竹ば節抜いて持って行った。ほして、 「いやいや、みな見える、この遠眼鏡は見える、アメリケンからイギリッシュからみな見える。すばらしい遠眼鏡だ。海の向うから山の方からみな見える。おもしろい、おもしろい」 て言うたれば、天狗さま、ノソリノソリと降 「これこれ、小僧、そんなに遠眼鏡ざぁ見えるもんだか」 「こいつぁ見える、見える。すばらしく見える。ときに天狗さま、相談だげんど、かくれみのと、この遠眼鏡とりかえねぇが」 「うん、はいつは面白いべな、どれちょっと見せてけろ」 「いや、天狗さま、駄目だ。こいつぁ三日おもわねど、効力発生しねなだ。その人に渡ってから三日おもわねど、見えねなだ」 「ほうか、うん、困った眼鏡なもんだな」 「見える、見える、ほりゃほりゃ、アメリカあたり人力車走ってあるぐ、こっちはこうだ、ああだ」 て言うた。天狗はムラムラ欲しくなって、かくれみの、彦市さ渡して、竹ツポ交換して家さ持ってきて隠しったはぁ。天狗は、 「明日から、いよいよ見えっぞ」 三日目なっても何にも見えね。ほうしたけぁ、「はかられた」 んだげんども、彦市がかくれみの着てるもんだから、どこへいたかさっぱり探さんね。ほうして、ほうほうの態で、そっから逃げて行ってしまった。そこからそこさ天狗ざぁ出ねがったて言うわけだ。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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