42 一休ばなし

 一休和尚ていうて、小僧の時代から非常に頓智がええがった。ほいつ殿さまさ聞えだ。ところがあるとき、意地のわるい奉行がいて、一休ば呼ばて、
「最近、鼻毛伸ばしていっから困らせて()んべ」
 て言うわけで、「一休、一休、こいつ当てるいが」て言うて、手さ雀(たが)って、
「この雀、生きっだか、死んだか当ててみろ」
 こう言うた。一休はニコニコしながら、
「はいつ当てねごどもないげんども」て言うわけで、閾さまたがって、
「んだら、おれのから当ててもらわんなね。おれは右さ行んか、左さ行んか、当てて呉らっしゃい。当ったらば、雀生きっだか死んだか当ててあげっから」
「参った」
 生きっだて言えば殺すべし、死んだて言えば生きっだまま出すべし、ちゃんと一休小僧に見抜がっだ。ほしてくやしくていだらば、殿さまからお使いが来た。
「なんぼ一休でも、絵図さ描いた虎は縛れまい」
 こういうわけで、ほして一休が呼ばらっで見たところが、ガンク、ガンカイて昔は虎描いては世界一と言わっだ、ガンクの虎、竹藪からすばらしい猛虎、口あいて猛虎ぶりを発揮して、そのすざましいこと、看板にいつわりなしのガンクの虎だ。
「そのガンクの虎を縛れ、どうだ、降参したか」
 て言わっだ。そしたら一休和尚は、
「いや、描いた虎でも何でも縛る。んだげんども、わたしの縛り方は、投げ縄でしばるんだ。竹やぶ邪魔になって、何とも仕様ないから、その竹やぶから追い出してもらいたい。おれ、こっちの方で待っていっから、何とかそうしていただきたい。」
 て言わっだので、殿さまも参ってしまって、虎追い出さんねがったど。
「追い出さんね虎、縛らんね」
 て言わっだて、これも何とも仕様なくて殿さま、一休和尚に負けてしまったど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>天とひばり 目次へ