22 疫病神豊田村、岡のはなし。岡野久左衛門という人の先祖が、朝草刈りに行った。朝暗いうち。そしたれば菰着った乞食みたいな居た。 「おいおい、おればのせて、行 「お前、誰だ」 て言うたれば、 「おれぁ、疫病神だ」 「いやいや、とんでもない。疫病神なの、のせらんね」 「いや、ほでない、おれぁ金もうけ教えっからのせろ」 金もうけと聞いて、金でばりみんな苦労してるもんだから。その人は非常に奇抜だった。 「んだら、疫病の神さま、おれの馬さのらはれ、金もうけ教えて呉っこんだら、草刈りなのしてらんね」 鎌ぶっ投げて疫病の神のせた。 「さぁ、のらはれ」 て、くつわとって馬さはんばがった。「どっこい」と疫病神さまのった。パッカパッカ引っ張ってきた。ほして部落まできて、 「ここで降ろして呉ろはぁ」 「はい、さぁ神さま、ここで降りなはれ、どっこい」 て降ろした。ほいつが姿見えねがったて言うなだな。本当んどこは。 ところが一日二日おもったれば、ほっつでも熱ぁ出た、こっつでは頭いたい、うんうん、うんうんてうなる患者がいっぱい出た。んだもんだから、先 「久左衛門の馬さのせてもらって、ほして村はずれさ捨ててもらうど、熱はたちまちさめる。今流行 はいつ聞いた人が頼みに来たて言うわけで、 「ほうか、ほうか、んでは疫病の神、おれぁのせて呉る」 て、その家の前さ行って、馬のくつわとって、 「さぁ、お神さま、のらはれ、どっこい」 て、声かけて、パッカパッカ、パッカパッカて引っ張ってくっど、ほの病人がスウーッと熱ぁひける。体、涼風が通るようによくなってきた。さぁ今度、その話でもちきりだ。そっちからもこっちからも頼みにくる。頼みくると同時に、金いらねなて言うたて、 「いや、おかげさまで生命助けてもらった」 どんどん、どんどん銭置いて行った。ところがほの村全部きまったと思ったれば、隣の村さ疫病神移って行った。その隣村でも、またうんうんていう病人が出て、やっぱり久左衛門さ頼みにくる。ほうすっど久左衛門が馬仕度して、ほしてパカパカ、パカパカて行くど、その家では待ってる。 「久左衛門さん、こっちだっす、あっちだっす」 て、案内して、そこの家さ真直ぐ連 「ああ、ほうか、んでは疫病の神さま、のらはれ、どっこい」 パカパカ、パカパカ。行ったか行かねうち、熱はすうっと下がる。隣の家でもその隣でも。ほして豊田村岡て言うどこ中心にして、ほこら十ケ村も疫病の神、みな廻ってしまった。ほうして気付いてみたれば、近郷近在にいねほど金残っていたずも。んで、この塩梅ならば、山形まで他人の土地踏まねで行くほど土地買ういはぁて言うてだ。 ところが、ほだいしているうち、どういうわけだか一番長男が昔のいうドスになったらしい。どうも様子が変だ、家さ置いて嫁とって呉るわけにも行かね。んだから五百両背負わせて、 「お前は善光寺さま、お詣り行げはぁ」 本人も自覚して、そういう体なもんだから、 「んでは仕方ないっだな」 て言うわけで、五百両の銭背負ってパカパカ、パカパカてお詣り出かけた。ところが山形のずうっとこっちゃ来て、黒沢というところまで来たればこわく(疲れ)なって、その坂登られそうでない。早坂登られそうでない。したら道の脇にせっせと草刈りしった女いだけど。ほこさ、ほの息子は行って、 「姉ちゃん、姉ちゃん、草刈り上手だな」 て賞めた。 「ほだんでない」 「実はな、おれ、こういうわけで家出てきたんだげんど、何だか此処まで来たらこわくてなんねぇはぁ。きっとこりゃ、おれも余命いくばくだかも知んねぇ。おれはこの年になって女て知しゃねなだ。実はお前さお願いすっだいことは余のこどでないげんども、今いっぺん、おかちゃん思い出してみっだいから乳首何とかおれさくわえらせてもらわんねべか」 その女さ頼んだ。大がいな者だら、「おら知しゃね、おら、ほだな…」て言うげんども、その女は非常に賢こい女だったらしい。ほして、 「実は、おれは姉ちゃんでなくて嫁なんだ、黒沢の久左衛門ていうどこさ、おれ、嫁に来たんだ。んだから、父ちゃんと相談してみねど、ほだなことさんねっだな」 て、こうなった。 「んでは、何とかお願いします」 ほして、こうこう、こういうわけだどて、旦那さ語ったれば、 「その人さ、そういう風にさせて上げろ」 て。そして、くわえらせだれば、 「ああ、おれはこの世の中にのぞみも何もないはぁ、いつ死んでもええはぁ」 て言うた。ほして、その家の旦那さま、自分の家のお庭さ、庵建てて呉て、ほこで丁寧に扱った。そして過ごしたところが、置いて行った金は五百両、その五百両を種銭 |
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