18 長い名の子

 むかしむかし、ある村さ、おぼこ生まっだずま。ほしてそのおぼこの名前、(なえ)て付けたらええがんべと思って、ほしてお寺さまさ、
「お寺さま、お寺さま、おらえの家さおぼこ生まっだから、名前つけてけらっしゃい」
「うん、おぼこ生まっだて、男かな、女かな」
「男でございます」
「うん、そうか、ちょっと待ってろ」
 て言うて、お寺さま、お経の本出した。
「うん、ジュゲム・ゴコウ・カイジャリ・ウンライ・フウライ…」
 ずうっと書いてみた。はいつ見っだけぁ、名前つけてもらいに行ったおっつぁんが、
「お寺さま、お寺さま、ほだえ、ええ名前だらば、皆つけて(なん)たべっす」
 て言うたら、
「ほうか、んじゃ、今から読んでみんぞ、ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノグウリンダイ、ポンポコナノポンポコピノチョウキュウメイノ、チョウスケ」
「はぁ、ええ名前だ、はいつ、みなもらって行くぜはぁ」
 ほして家さがらがら走って、
「かあちゃん、かぁちゃん、お寺さまに名前つけてもらってきた」
「はぁ、何ていう名前、長いべか短いべか」
「ああ、つうと長い」
「何てつけてもらって来た、まず」
「ええか、今から読んでみっから。ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノグウリンダイ、ポンポコナノポンポコピノチョウキュウメイノ、チョウスケさんて、名付けてもらってきたんだ。ナマンダブ、ナマンダブ」
「何だかお経みたいだ、おら」
「お経みたいだって、お経からつけてもらって来たんだ」
「んだがした」
 なて。ほだえしているうち、だんだん大きくなってきてはぁ、手習いさ行かんなねようになった。ほうすっどジュゲムがなかなか寝ぼすけだ。友だちぁ起しに五十軒も手前から呼ばって行かねど、ほこの家さ行ったとき、タイミングうまく合わね。
「ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノグウリンダイ、ポンポコナノポンポコピノチョウキュウメイノ、チョウスケさん」
 五十軒も手前から呼ばって行かねど、なかなかええあんばいになんね。んだどとてもジュゲムざぁ寝ぼすけで起き上がんね。ほうすっどまた呼ばんなね。ジュゲムのおかちゃんつぁ、つうと耳聞こえねがったど。んだもんだから、もさっとしてる。おっつぁんが稼ぎに行ってる。ジュゲムは寝ぼすけだべし、なかなか起きない。ほうすっど寺子屋へ遅れっどなんねから、
「ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノグウリンダイ、ポンポコナノポンポコピノチョウキュウメイノ、チョウスケ、起きろ」
 やっと「おお」なて起きてきて、学校さ行ぐのだけど。
 ところが、ジュゲムは喧嘩好きで、寺子屋さ行っても、いつでも喧嘩する。寺子屋の先生からごしゃがっでばりいる。
 ある時、友だちの頭、いやて言うほど引っぱだいだ。すばらしい大きいコブ出てしまった。ほして家さ行ったらば、そこの家のかあちゃんが、
「何した、こだい大きいコブ出した」
「十人前叩がっだ」
「んだら、おれ行って、つけ込んで来らんなね、おえねえ(いけない)野郎だ」
 こういうわけで、その友だちのおかちゃんがジュゲムの家さつけ込み来た。
「お前の家のジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノチョウキュウメイノ、チョウスケがおら家の野郎の頭叩いてコブ出した」
 あんまりせき込んで言うたもんだから、何が何だか分らね。ほいっちゃジュゲムのおかちゃんがキンカ(聾)ときてる。「何?」て聞き返す。ほうすっど、
「ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノチョウキュウメイノ、チョウスケが、おらえの野郎の頭叩いて、こだい大きなコブ出した」
「何、どれどれ、コブ、ああ、何もないど、これ。嘘ばっかり言ってる」
 なて、あんまり名前長いから、ジュゲムのかあちゃんが頭撫でてみたときは、コブないなだけどはぁ。
 ところがある日、みんなして遊んでいたとき、何したもんだか、ジュゲムが足滑らかして川さ落っでしまった。春先の水どんどん流れっどきで、増水したときなもんだから、ツプツプ流され始めた。はいつ見っだ友だちは教えきた。
「ジュゲムジュゲム、ゴコウノスリキレ、カイジャリ、スイギョノスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツ、クウネルトコロニスムトコロ、ヤブラコウジノブラコウジ、パイポパイポノシュウリンガン、シュウリンガンノチョウキュウメイノ、チョウスケさんが川さ入った」
 ところが、おかちゃんがキンカなもんだから、「何?」て聞き返した。もう一ぺん言った。ほだいしているうちに、ツプツプ流っで行って死んでしまったけどはぁ。んだからあんまり長い名前ざぁ、つけるもんでないけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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