9 こぶとり

 むかしむかし、あるところに一人のじんつぁがいだっけど。そのじんつぁの頬っぺたさ、夏みかんより大きな黄色いコブが一つぶら下っていだんだけど。
「見っともないコブだし、邪魔になるなぁ」
 なていだんだけど。して、そのじんつぁがコブあるため、人さ会うのも()んだもんだから毎日山さ行って、ほして柴刈ったり、薪拾ったり、毎日山さだけ行っては、人さ会うのあんまり好まねんだけど。んだげんども、おじいさんが歌うたっても歌もうまくないし、こりゃ何か一つ憶えておっかなぁ、ていうわけで踊り習ったんだど。
 ああ、スッチョイスッチョイ
 スッチョイナー
 なて、なかなか手振り身振りがええがった。ほして、何よりの趣味として、その踊りおどんのを楽しみにしったんだけどはぁ。
 して、ある時、おじいさんが、
「いつものどこに、あんまり焚物落っでいねがらはぁ、少し奥さ行って見っかなぁ」
 て、ずうっと奥まで行ってみたれば、何だか山がにわかに今度は空悪くなって曇ってきて、(らい)さまはらんだ雨と風とものすごくなってしまった。
「こりゃ、うまくない。ほこらに(ほら)穴ないべか」
 て言うわけで探したれば、大きい木の洞穴あるんだけど。
「ほんでは、ここさ雨宿りして、晴れんな待っていんべなぁ」
 て言うわけで、そこさ入ったんだど。
「こりゃ仕方ない。今夜ここさでも寝っか、どうせこうせ、このほっぺたのコブ枕にして眠んべなぁ」
 て言うわけで、その夏みかんタンコブ枕にして、ほしてトロトロって眠ったと思ったれば、お月さまの光が洞穴の中さ、さし込んできたわけだ。ほしてええお月夜になった。ほして見たれば、その洞穴の前が何だか広場みたいになっていだんだど。したば何だか人の声みたいな歌い声なの、笑い声なのきこえる。何だべと思って、ちょっと音のする方さ耳かたむけてみたんだど。ほして音のする方見たれば、いや、おじいさん、ぶっ魂消たんだど。膝カクカクて言うて、心臓とかとかて言うたど。それもそのはず、ほのおじいさんの前の広場で、赤鬼・青鬼、車座になって何だかお月さま眺めしったんだけど。ほしてよっく見たれば何だかおかしげな茶碗みたいな出して、ドブロクみたいな注いで酒盛りなどしてだんだけど。
 一人一人みな虎の皮の褌して、筋骨隆々とした鬼なんだけど。ほして酒がぶがぶ飲んで、歌い始めだんだど。したれば赤鬼が出て踊ったり、黒鬼が飛び出して肩組んで踊ったり、いやまず、ほの踊りの下手なことった…。んだげんども、楽しそうに踊りおどる。手振ったり足振ったり、いろいろやった。
 ほだいしているうちに、ほのおじいさんがむやみに踊り好きだから、いつかふらふらと自分も踊りさ巻きこまっで行ってしまった。ほして、いつの間にか手足動かしていた。はいつ見っだけぁ、鬼どもぶっ魂消げた。何者出はってきたと思って、見っど人みたいだげんど、右のほっぺたさ、黄色い袋なのぶら下げて、はいつから、手裏剣でも出してぶっつけられるんでないかと思ったんだが、(なえ)だか知しゃねげんども、まずはぁ、ぶっ魂消て逃げ出すべと思った。ところが、かかってくるどころか踊りおどってくる。ほの踊りはとっても上手だ。上手なはずだ。本職について習った。鬼の我流踊りとちがうわけだ。
 そんな無骨なぎこちない踊りとちがう。腰つき、足つき、目のくばり、何とも()んない踊りだ。ほして一つ踊れば鬼どもはものすごく拍手喝采した。ほしてにこにこ、にこにこと笑いながら、鬼も、ほのおじいさんさ従いて踊った。ほして環になって踊っているうちに、じんつぁもはぁ、調子さのって、
「どうだ、上手だったが、おれの踊りは」
 て言うたれば、鬼ども一同、拍手喝采を贈ったんだど。ほして「上手だ、上手だ」て、みんなして賞めだ。
「月夜の十五夜の晩が、いつでもここで踊っから、ちょいちょい来て、踊って()ねがぁ」
 て、鬼に頼まっだんだど。おじいさんも人がええもんだから、
「ええっだな、踊っだな」
「んだげんど、じんつぁ、きっとおらだば恐かないだの、(けぶ)たいだのて来ねがも知んねぇからて、何か大事なものあずかって置かねくてはなんね」
「いや、おれなの、貧乏して大事なものなて、山刀・鎌、こだな減ったなしか無いし、何一つない」
「いや、ほだな、じんつぁ来ね気だな、誤魔化しても駄目だ。右のほっぺたさ入ったな、はいつ、夏みかん色しったな、そいつの中さ(きん)入っていたべな。よし、ほいつあずかっておくから」
「いや、ほいつはタンコブだ、タンコブだ」
 て言うたど。
「ほだな大きなタンコブあるもんでない。はいつきっと黄金入っていた。金入っていた」
 て、鬼の(かしら)きかねんだど。ほして子分の赤鬼さ何やら囁いだんだど。したればその痩せっだ赤鬼ぁ来たけぁ、いきなりその夏みかんみたいなタンコブ押えだけぁ、千切り取ってしまったんだけど。して、おじいさんが「あら」と思ったげんど()っだくも()いぐもないがったんだど。ほして魂消て、キョトンとしったればそいつ取っど安心した鬼どもは、また一生けんめい踊った。こんど、今まで邪魔になって邪魔になって仕様なくて、人前さも出らんねくていたな、取ってもらったもんだから、おじいさんもうれしくなって、また踊った。こんど踊りは前より一段と冴えていたわけだ。
「いや、日本一の踊りだ」
 鬼から賞めらっだ。ほだいしてるうちに、何だか東の方の空、白みかけた。ほんで人来っどなんねぇて言うわけで、鬼どもは引き上げて行ってしまった。ほうして、おじいさんが喜んで帰ってきたわけだ。
 ところが、ほの村に左のほっぺさ、やっぱり夏みかんぐらいなコブぶら下げっだおじいさんいだんだけど。ほのじんつぁの、また欲ふかいこと、あっちの方に、もうけぞく(もうけ口)あっど、人ば吹っとばしても行って、一番早く、ほこさ行くんだけど。ほして考えだんだど。
「ようし、そういう話だら、おれも一つとってもらって来らんなね」
 ほうして真暗くなんの待ってで、山さドダドダと走って行って聞いたとこ、すうっと行って、平らなどこさある洞穴の中さ隠っでいたんだど。ほしてまだお月さま出ねべか、まだお月さま出ねべかと思ったれば、大きなお月さまがぱぁっと空明るくなって出はってきたわけだど。
 ほうしたれば、鬼だ、やっぱりドブロク持ってきて飲み始めたんだど。気の早いのぁ、テクテク踊りはじめたんだど。
「よーし、ぴったり、かやかったり」
 ていうわけで、穴からいきなり出はってって、一つ踊って()ましょうと、ここだと思って、ほしてそのおじいさんがいきなり洞穴からとび出して行って、踊り始めたんだど。んだげんど、稼ぎ仕事や、もうけぞくにゃ一生けんめいになって走り廻って歩ったけんど、踊りの「オ」の字も知しゃね。
「なぁに、()むことない」
 て言うわけで、足と手動かしてみた。ほっちゃやったり、こっちゃやったりしたげんど、鬼だ、決して感動しねがったど。あきれ返ってがっかりしてしまったんだど。したけぁ、
「何だ、かえっじぇげだな、下手なじんつぁ、昨日のじんつぁとちがうようだ。かっじぇげだなじんつぁ居っど、酒もうまくないし、踊りもろくだなこと踊らんねから、ちゃっちゃどはぁ、帰してやれはぁ」
「かえっじぇげだな下手な、毎日来っどなんねがら、昨日取ってだ、みかん茶の袋返してやれはぁ」
 て言うわけで、昨日、よいおじいさんから取った袋を、やせっだ鬼は(たが)って来たけぁ、ピシャーリとぶっつけだけぁ、右の方さ、そいつぁピシャッとくっついでしまったんだど。ほして右と左さコブぶら下げながら、鬼から、
「ちゃっちゃと行げはぁ」
 なて、ごしゃがれごしゃがれ、森の中から涙こぼしながら、ふらりふらりて家さ帰ってきたんだけどはぁ。んだからあんまり常平静、欲ふかくしたり、意地悪るくしたり人の真似したりさんねもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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