5 左甚五郎の竜むかしむかし、左甚五郎が弟子離れして、江戸さ行って修行すんべと思って、江戸さ出はってきた。ところがたまたま、その時、 「上野の寛永寺さ竜を納める。われと思わん者は竜を彫って出してみろ」 と、品評会を開いて、一番ええ竜を納めるという触れが出た。ほして、あまた工匠たちは腕によりをかけて、材料をそっちこっちから集めて彫りはだった。大体一ヶ月ぐらいの余裕があった。 左甚五郎は竜というものは実際見たこともない。絵本や何かでは見たこともあっけんども、んで、何とか一つ、竜を見てみっだいもんだなて言うわけで、浅草の観音さまさ、穀絶ちして一週間の願をかけた。三日・四日、何ごともなかった。五日・六日になった。ほんでもまだ観音さま、竜を見せて呉ね。いよいよもって満願の一週間目になった。 ところが、ちょっと右の方見たれば、不忍の池の水が渦巻いてだけぁ、むっくりと高くなって、そっからすばらしい竜が頭出して、こんどは浅草の観音さまの屋根のどっから、紫の雲がたなびいた。それさその竜がのって、登って行くすざまじい竜の姿、まざまざと見た。 「ああ、すごいなぁ」 と思ったれば、はっと目覚めた。ところが一週間も穀絶ちしったもんだから、腹減って腹減ってはぁ、ふらふらとなって、そこさ倒っでいだんだけどはぁ。ほして、 「ああ、分かった。あの姿だ」 て言うわけで、家さ帰ってきて、御飯食べて、ノミ研いで、そして材料さ向かって彫り始めた。もう期間もないもんだから、やっぱり荒彫りだった。 いよいよ品評会の日、ずうっと並べだら、他の彫刻師、大工だ、その連中だ、みなののしった。 「何だ、こだな竜でないべな、こだなおかしなもんだ」 て、悪口して一番端の方さ押っつけらっでいだなだけどはぁ。 ところが、いよいよもって審査の日がきた。ところが三代将軍徳川家光公を先頭に、あまたの役人が、うしろさゾロッと従いて、ソロリソロリと、次から次を見て行った。ところが一番最後の左甚五郎彫った竜のどこまで行ったら、将軍さま、「あっ」と声上げてたまげた。いかにも、今にもとびかからんばかりの竜のすざましさに、度肝抜がっだ。「やあ、これだ」というわけで、その荒彫りの竜が上野の寛永寺に納まったわけだ。 ところが、夜な夜なそれが水飲みに出はって、不忍の池さ行ぐ。そして一般の人が、 「いや、竜いだっけ。いや、恐っかながった」 て、いろいろ竜の話で持ち切りだ。「ほだなことないべ」て、左甚五郎、行ってみたら、やっぱりパタパタと水の音して、朝げになっどちゃんと寛永寺の門に納まってる。んだげんども、どうもその竜の体がしっとりとぬれて、ポタポタ、ポタポタと水落してる。うろこが濡れている。 「いや、これは、みなさんをお騒せしては申しわけない」 て、左甚五郎はノミを打 |
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