33 一足片片(かたかた)

 ここ(糠野目)のお山王さまに、一足片々という人が、門前先にいだったど。わらじ売りしったんだど。一足片々とは一足買った人さ半分まけるんだど。そのため「一足片々」と名付けらっじゃんだ。
 あるとき、上杉さまが危篤になって、よっぽどの間になって夢見たど。自分が一番高い立派な壇さ、自分が殿様だから、上られるのが常だから、とっとっと行ったれば、赤鬼青鬼に追わっだど。
「なんだ、貴様の来っどこでない
「おれは米沢の藩主だ。ここに上るのは何が不思議だ」
「お前のような者は、ここさ上る資格はない。ここに上るのは、一足片々て、ここの住人で、神様同様の人だから、これはここに上げるのを待っていんのだから、誰も上げらんね」
 そうすっど、殿様が目覚まして、家来をよこしたど。そうすっど乞食(ほいと)みたいな恰好して、わらじを一足買った人さ片一方、二足買った人さ一足まける。なしてまけると言うと、わらじが必ず片一方から切れるもんだ。そんどき役立たなくなるから、片一方履くと、またしばらく間に合う。そういうわけだ。そういう奇特な人、ここに上げんのだから、お前のような者は上がる資格はない。ただ人使って…。
 そいつぁくやしくて、くやしくて、取換えっこしろて言うた。
「取換えっこなど、ええどこでない、殿様のええようにしてくろ」
 て言うたど。
 そういう人がここに居てやったんだど。
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