(6)旦那に行きたくない金

 むかし、鱒だの塩引の生鱒なの珍らしくて、買わんねから、魚(いさば)屋の前通っど、こうして見る人いっぱいいたんだど。佐兵も見っだのだど。そして佐兵は、こうして見て、あまり珍らしがって見てるもんだから、その魚屋の旦那が、
「佐兵、佐兵、そがえに珍らしいか」
「珍らしい、珍らしいな」
「食ってみたくないか」
「食ってみたい」
「買わねが」
「高くて買わんねもの」
「佐兵だから、他(よ)の人でないから、五文にまけんべ」
 て言うたど。そうすっど、喜んで五文にまけんべと言うもんだから、まさか銭持っていたと思わねも、ボロ衣裳ばり着て歩っからなぁ。ふところから出したど。
「はい、五文」
 て。そうしたらば魚屋、いたましくなって、
「ほんじゃ、佐兵、ちょっと待ってろ、まず」
 そして、その魚さ行って、
「鱒、鱒、まず、佐兵さ買わっで行んか、行かねか、行かね?行かね。…佐兵、悪いごんだげんど、こんどの切り魚、佐兵どこさ行かねて言うぜ、仕方ないから、今度の次まで待ってで呉ろはぁ、こいつは分んねなぁ、こりゃ」
「んだか」
 て、佐兵は五文の銭持ってもどったって。
 そしてこんど、すばらしい若衆の振舞いの注文受け取って持って行った。そしてどっしり整(そろ)わせで取りに行った。そして、
「その銭、なんぼだ」
「なんぼ、なんぼだ」
 その銭、ゾロッと出したど。そしてその旦那が銭とる気になったど。
「旦那、ちぇっと銭に用ある。銭、銭、魚屋さ行んか、なじょだ。銭なじょだ、行かね?銭が行かねて言うぜ、銭」
 て、銭、がらっと持って来て、返報がえしさっだど。
 まず、佐兵は狐みたいに返報がえしのしねえことざぁないがったど。
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