(4)彪の皮の屋根

 そしてこんどは、
「おれ、とんでもない珍らしいもの見てきた」
 佐兵のごんだから、また小馬鹿にしに来た、誰もあしょらうな(相手にするな)と言うたげんども、
「とんな珍しいもんだ、とっても見らんねもんだぜ」
「何だ」
「あの、彪の皮で屋根ふいっだどこ見て来たぜ」
「彪の皮なて、虎の皮だの彪の皮だって、ほがぇな、熊の皮も敷かんねに、彪の皮屋根さ葺いたなんて、あんめぇちゃぇ」
「どこだ」
「宮内!!」
 また、佐兵は人馬鹿にしてはぁ、小馬鹿にする、はつけなこと行ってらんね。なんて藁仕事しったんだって。そのうちの若い者ぁ、まず、あしょらって、
「ほんじゃ、そがな珍らしいものなら、おれぁ行ってみんべ、若し無いがったら、佐兵、酒買うか」
「あまぇ、ええ」
「嘘だったら、酒十五杯、佐兵が嘘こいだら、十五杯、もしあったら、おらだは十五杯、ほんじゃ酒の賭しんべ」
 そして、若衆は仕事やめて、宮内さ行ったんだど。一日がかり掛(かか)っこではぁ。そして六角町あたりさ行ったらば、俵が一枚、屋根さ上がっていたど。そこ突(つ)ん抜けて行って、ずうっとあちこち皆見て、熊野さまあたりまで町中見たげんども、彪の皮など、さっぱりない。
「んだから、彪の皮なて、ありっこないのだず」
「佐兵なて、こういうことばり語んのだから、馬鹿にさっで来たんだから…。おらだ酒飲むばりだからええ」
 なんて、若衆は笑い笑い来たんだど。そしたら家さ来て、佐兵は待ってだ。
「なじょだった」
「なんだ佐兵、ほがえな彪の皮なんて、あんめぇちゃえ、どこにもないけなぁ」
「六角町にないけがぁ?」
「六角町には米俵一枚上げっだどこあっけなぁ」
「そいつよ」
「人馬鹿にした、この野郎、ほに…」
「ほんじゃて、お前だ、米なじょに勘定する」
「おれぁ、米一俵・二俵って勘定する」
「米抜いでしまったもんだもの、俵(彪)の皮だべちゃ」
 とうとう、文句言うたげんども、酒買わせらっで、飲まっだど。
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