(1) 酒の篭抜け

 番所に、米沢から役人が来ているわけだ。そっから向うは御領、こっちは米沢領。向うからは酒だの贅沢品がこっちさ流れる。そういうことはさせらんねごとになっている。そうすっど、皆んなだええ酒欲しいもんだから、松川の頭(かしら)を来たり、いろいろ関所破りみたいに来たもんだげんど、佐兵ばりは、小便の澄んだとこ樽さ詰めて、そうすっど、
「なんだ佐兵、背中さ背負ってだもの、なんだ」
「こいつぁ、小便だ」
「何だ、小便、樽さ詰めて歩くものいたか」
「いや、小便だ」
「降ろしてみろ」
 その侍が、ちょっとさぐって(汲みとって)飲んでみた。
「何よ、本当に小便だ」
「んだから、小便だて言うたどら…」
 佐兵は有名なもんだから、戻したっても始まんね。
「馬鹿野郎にも、程がある」
 なて、おんつぁっだ(怒られた)。
 それからざぁ、佐兵は、毎日毎日、樽で、今度は本当の酒運んだど。
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