14 食わず女房(田の中の田ン三郎)

 田の中の一軒家に、若い者ぁ一人っこで稼いでいるとき、夕方、若い女が尋ねて来て、
「置いてもらいたい。置かんねなて言わねで、置いてもらいたい」
 そうして、
「お飯(まま)食(か)ねで稼ぐから、嫁にしてけろ」
 ていう。お飯(まま)食ねで稼ぐええげんども、(夫が)いねうちにお飯、一生懸命で炊いで食う。
「今度、お飯食ねで稼ぐ嫁来たど」
 て、隣の人がのぞき込んでみたど。そしたところぁ、一生懸命ヤキメシ握って、髪ほどいて、そこからスポッと入(い)っでやんのだど。んだから、あがえな「お飯食ね」なて言うの、頭なの入っでやんな、あんげな化けものだ、あんげなごんでは、なんぼ食うか分かんねと、大騒ぎになった。
 そしたところが、田の中の田ン三郎は、そんでも信じねがったど。そんどき、晩方ごろ、田んぼのとこ来たとき、唄うたったな聞いたどこだど。
  田の中の田ン三郎の御内儀は
  お身のためにオバゴよ
  オバ御に似(み)合ったら
  ミョウリ果報ござんべ
   ネンネコ ヤイ
   オンコロ ヤイ
 て、子守っこしったど。そしたば、何しったと思ったら、狐コ背負(おぶ)ってたんだど。そいつを田の中の田ン三郎に教えたわけだど。そうすっど、とんでもないオカタもらったなて、喜んでいるはぁ、なじょなもんだか知ってたか、いつか稼ぎに行ったふりして、もどり返って来てみろて教えらっじゃど。お飯食ねで稼ぐなて、田ン三郎いねうちにこうして頭さ食うなだて、教えらっだ。
 そしてこんどは、そこ見つけらっじゃもんだから、とうとう本性現して、田ン三郎さ掛からっじゃわけだ。
 そんどき、逃げて逃げて、田ン三郎が隠っだところは、菖蒲とヨモギの出っだ草ぶくだったど。そこまで来たげんど、鬼はとうどう見つけらんねで行ってしまったど。狐でなくて鬼だったんだど。
 んだから、五月節句に菖蒲とヨモギ、さすんだど。
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