１３　猿　　　　　聟

　娘が三人だった家で、その家では、うしろ千刈り、前千刈りの千刈田作ってで、うんと旱魃で困り果てて、親父さまがそこさ行って、
「この田さ水掛けてくれる聟もらったらええがんべなぁ」
　て。
「こいつさ水など掛けて呉っこんだら、おれぁ、三人娘いだじだ、どれでもええぁな呉れっけんどもなぁ」
　て言うたば、
「ああ、ほんじゃ、おれ掛けて呉れる。おれぁ掛けて呉れっから、おれに呉(く)ろ」
　て来たから、誰だと思ったれば、猿コだったずも。
「掛けて呉れっから、本当に娘呉(く)れっか」
　て言う。困ったこと約束したはぁ、なんぼ約束したって、あんげな猿ぁ、前千刈・後千刈の水など掛けられっことない。大丈夫だと思っていたところぁ、次の日、満々と水掛けらっでだ。そうすっどはぁ、困り果てて、頭病(や)みして…。
「何、そがえに、どっちゃ（父）、何ほがえに頭病(や)みしてんなや」
「こういうわけで、前千刈・後千刈さ水、ダブダブと掛けて呉(け)る聟さだら、おれ娘、三人もいる、どれでも呉れると言うたらば、猿だったけ。そんではぁ、こんど何でもかんでも呉ろ呉ろといわっで困り果てて、頭病みしったんだ。そんで、お前だ、誰か行って呉れっか」
　そしたら、一等大きい娘、
「おれぁ、そつけな、なんぼ馬鹿だて、猿のオカタになんねから…」
　二番目も、
「猿さなど嫁かね」
「ほんじゃ、おれぁ殺されっこではぁ、猿に八つ裂きにされっこではぁ…」
　て、親父が泣いていんなだど。三番目の娘が、
「ほんじゃ、おれぁ行くから」
　て、三番目の娘が行くことにしたんだど。
　そうすっど、喜んではぁ、猿が三番目の娘もらって行くことに決めたごではぁ。
「ほんでは、おれ、三番目の娘もらって行くはぁ」
　喜んではぁ、もらって行ったど。そして山奥さ連(せ)て行かれんのよ。
　そしてこんど、春の花の咲く三月頃、家さお節句に来ることになった。そして二人で来ることになった。そして二人で来たわけだ。喜んで…。こんど猿ぁ、
「何持って行ったらええがんべ」
「おら家の親父は餅好きだ」
「ほんじゃ、餅搗いてが…」
　猿ぁ餅搗いて餅持って来る気だ。
「そだな、何かさ入(い)っだの嫌いだという」
「ほんじゃ、なじょすっどええごど？」
「搗き入れの餅好きだし、臼がらみでも背負って行ったら喜ぶべげんども…」
「ほんじゃ、臼背負って行んこで」
　て、こんどは猿は臼背負って来たんだど。そして途中さ来たら、すばらしい大木さ、桜の花咲いっだど。谷川さそってだど。
「きれいな桜だな、こいつ持って行ったら、お土産になんぼ喜ぶんだか」
「ほんじゃ、おれぁ取ってくれっこで」
　臼降ろそうとすっど、
「臼を降ろすと、土くさいて分んねなぁ、降さんねなぁ」
「ほんじゃ、その臼背負って登って取っこで」
　て、臼背負って登ったんだど。桜の木さ臼背負って登って行ったもんだから、谷川さ落(お)っでしまったんだど。
　そん時、泣きたくもないな涙こぼして、
「ああ、流っで行く、流っで行くはぁ」
　て、泣いっだんだど。そしたら、猿ぁ谷川流っで、
　　さるさると流るる生命はおしくない
　　　後にお姫は泣くばっかり
　て流っで行ったど。
　そして三番目の娘が、猿が谷川流っで行って、死ぬのを見て、家さ帰って行って、そして親たちから喜こばっで、親孝行したど。どーびんと。
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