8 長い名むかし、番頭・手代・五十何人とか七十何人とかの大した大尽だもな。大金持の長者さまだものな。そこさ、久しぶりで男孫ができたわけだ。そうすっど、その旦那が丈夫で長生きして、えらい孫になるように、こんどは法院さまさ名前つけてもらいに行ったど。その名前つけてもらったら、とにかく憶えたてなんねような名前だもんだものなぁ。 「エッケモッケ、ケモケ、キンチャクチャクノチャクモッケ、イツツニカンチョコライ、トリニモトッタカタケバヤシ、マエノマエノマエバヤシ、テキスイテキスイ、リンボウシャ、オンボウシャシャタカニュードウ、ハリマノベットウ、チャワン、チャビシャク、ハリマノヒコネノヒコスケ」 (または「イチギッチョ、ニギッチョ、サンゴノベットウ、スットットウ、チョウヤニカイポ、タナツリ、ズブクグリマタジロウ」ともいう) という名前だもの、そういう長い名前つけてもらって、旦那が憶えるばり容易でなく、やっと憶えたわけだ。やっと憶えて、こんどそれから番頭から手代から皆呼ばって、自分が高い座敷にいて、あとずっと低いとこに皆集めらっで、 「エッケモッケ…」 「エッケモッケ…」 学校生徒、イロハ習うように、一晩げ教えらっだど。一晩げでは憶えらんねごで。そしてこんど番頭が憶えたごで。その番頭が、 「決して片名(かたな)呼びなどしたりしてなんねえから、上から下まで、すっかり呼ばんなねから…」 そういう風に教えらっじゃもんだから、皆、紙端さ書いて、それから女中など困って、字など番頭や手代など知っていんべげんど、知らね人は大困りして、 「そげなこと、いっそ、呼ばねほうええはぁ」 なていうわけだ。面倒くさくて…。そのうちに、五つばりなった時に、井戸さ入ったど。んだからこんどは、梯子探(た)ねに、三間梯子の長いの探(た)ねに、呼び流しさんねから、上から下まで数える。そいつ、じだんだふんで、おかしくておかしくて、「エッケ・モッケ…」て半分まで行って間違って、「エッケ・モッケ…」と何べんも何べんも言うて、 「今、井戸さ入って死ぬから、早く貸してくれ」 「はぁ?」 なていうてるうちに、とうとう死んでしまった。 んだから、そがえな馬鹿な長い名前つけるもんでない。どーびんど。 |
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