5 二つ森のお稲荷さま

 二つ森に、お稲荷さまあっこで、そこのぐるりに川あって、雑魚釣りに亀岡の人が行って、何だか、カクカク・カクカクと眠ぶたくなって、川さ曲るんだど。不思議だな、今頃こがえして眠ぶかけ出るなんて…。
 ちょっと見たれば、川の向いに狐、ちゃんとして、手まねぎするんだど。こう手まねぎするたんびに、カクカクと曲んのだど。
 そうすっど、こっちでも、狐に負けねで、タッタッタッタッと手まねぎすっど、狐ぁクラクラ・ジャポンと、川さ入って逃げて行ってしまったど。
 人には敵(かな)わねごで。なんぼ狐だというたて、狐に化かさっでいねぞというもんで、雑魚いっぱい釣って行ったど。
 またそんげなことすっど、狐ざあ返報がえしするもんだ。必ず返報がえしされんべさと、みんなにいわっだど。
「はっげな畜生に、おれぁ負けていらんね、おれぁこの前、狐どこ川さ入っだんだ。負けていらんね」
 そして、こんどは久しく経ってから行った。そしたら、やっぱりその狐は出ないで、びっしり獲ったんだど。そんでそこは二つ森のぐるりは畠だから、そこの作場道さあぐらかいて、でんとしったんだど。
「君はそがえして、日は暮れんぜはぁ、そんげなことしったら、暗くなんべちゃぇはぁ」
「やかましい、おれぁ狐に化(ば)かにさっでいねぞ」
「なんだ、狐なて、君何語っていんなだごど」
「おれどこ化かすんべと思ったて、間違うぞ」
 決して動かねずもよ。「歩(あえ)べ、歩べ」なて言うたて、いっこうに動かねず。そして遂にこんど、そがなこと語って暗くなってくると思って、ビリビリ追っ立てらっで、来んべと思って、ここさ置いっだハケゴ見たらば、魚一匹もいなかった。狐みな盗(と)らっだど。何言うたて狐にぁ、返報かえしされるもんだ、ほれ見ろ。
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