2 牛方と山姥

 「さかな、さかな」
 て、売って歩いて、そうすっど夕方になって、魚が売れなくなってしまって、こんどはどこか宿探しに、農家の家でも泊っど思って行って、山の中ずうっと行ったとき、うしろの方から、
「魚売り、魚売り」
 て呼ばらっじゃど。
「魚食(か)せねど、呑むぞ」
 て追かけらっだ。そうすっじど、一匹投げては逃げ、また追かけられっど逃げ、とうとう家見つけて、その家さ寄ったところが、隠っだところが、魚食せねど呑むぞというた鬼婆の家だけど。そして、ワラワラ屋根の上さ登って、こういう火焚く上さあがってしまったど。そうすっど、昔、生魚でない塩魚ばりなもんだから、喉ぁ乾いて大きい釜さ湯沸して、お湯のんで、こんどは甘酒のんでだ。そしてこんどは葭(よし)抜いて、その鍋さ、ずうっと葭立てて、ツツウ、ツツウと吸ったって。甘酒のんだど。そしたら(鬼は)眠(ね)ぶかけして眠っだもんだから、鬼が、甘酒なくなって釜がピリピリピリピリというもんだから、
「なんだ、こりゃ。キリキリ虫ぁさやずる。キリキリ虫ぁさやずる」
 なて、釜の焼けつくのも知らねで、眠てしまった。そして目覚めた時は、ピリピリ・ピリピリとなくなっていた。
「この畜生、ほに、おらほの火虫の畜生は、みなまくらいあがった」
 なて、こんどは、
「こんじぇ、分んね。眠るはぁ。今晩は温(あた)かいから、木の唐戸さ入って眠んべはぁ」
 て、木の唐戸さ入ったんだど。
 そうすっど、魚売りが降りてきて、大きい釜さお湯沸かして、唐戸の上さあがって、キリで穴開けたんだど。キリキリ・キリキリと。
「キリキリ虫ぁさやずる。キリキリ虫ぁさやずる」
 なて眠(ね)っだ。そして段々に穴、大きく開けて、そのうちに鬼は眠ぶってしまった。
 ガラガラお湯の煮えるまで煮たんだど。そしてこんどは、穴からどうどう・どうどうと落としてしまった。そうすっど、中で、熱い熱いと騒いだげんども、外から錠掛けっだから、でて来(こ)らんねくて、じだばだで中で死んだど。そして鬼退治したんだど。鬼婆だったど。どーびんと。
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