10 馬鹿聟うすばかな男、いだったそうですな。ところがこの男も若者ぶりはええし、丈夫だったそうです。ところが頭の方、廻りが足りない男であったわけです。 それである人が、 「ええどこだから、聟なった方がええ」 ていうわけで、縁談まとまって聟になったそうですな。そのうちに母親(あば)があったそうです。 「お前は寝相われから、ちゃんと寝るとき、手拭でもって、枕さ縛って置けはぁ。晩んげなっど、寝相悪れから、人に馬鹿されるから」 「はいはい」て、いうたそうだ。 それからこんど、三々九度の盃終って、やがて時間きて休んだ。 「ああ、寝相悪れぐせば、人に笑われる」 枕さ、こそっと手拭で頭まわして、床からはずれないようにして寝だって。なるほど夜中になって、床からはずれて、時計の針みたいに廻って、それでも頭から枕ははずれないわけです。 それから朝になって、ぼつぼつ起きだども、流しの方さ行って、顔洗ったわけだ。やぁ、顔洗うげんどもやぁ、枕ぶら下げて流しの方さ行ったわけです。 「何だ、枕はとるものか」 「あたりまえ。寝るときは枕から頭はずせば、笑われっからつけていったども、朝起きてもまだ枕つけてる」 「んだがえ」 て、枕とったわけです。こんど朝のあいさつ。 家出るとき、母親(あば)があいさつ教えたそうです。 「ああ、大根なてええもんだ。根も食(く)ねぇば、葉も食ねぇ」 茶の間さ来て、御主人さ、「お早ようございます」聟そこさ行って、 「大根てなええもんだ。根も食ねぇば、葉も食ねぇ。根も食ねぇば、葉も食ねぇ」 なんぼしても言うたど。客人(ひと)も帰ってから、また次の晩、 「頭が少(つ)うとおかしい、んねが、まず」て。 「兄(あ)んこ、兄んこ。ちょっと数(か)ぞさなねことあっから、ソロバンおいて呉れ」 「よしきた」 て、ソロバン。 「なんぼになんぼ。一俵の米、四人して分ければ、なんぼずつ当るもんだか」 昔はソロバンの九々あったもんだからね。 「サンチノセンチ、サンチノセンチ、コウリカッテ、ガッツノエッカ」 「おう三合七升か」 なんと、むかしは〈斗、升、合〉て、斗の次は升、その次は合で…。 また次には金の問題になって、何百何十文を何人に分けるていうたわけです。そしたらまたソロバンおいて、 「六十、十文」 ていうた。そして次の日、さっそく、見込みないから帰って呉(く)えはぁて、三日で帰さっだそうだ。 そしてこんど家さ行って、 「なんと、おら戻さっで来たで、おれの母親、言いつけた通り言うたどもなぁ、ソロバンもおけねぇで戻されんなも、仕方ないしなぁ」 てだど。 |
>>たかみねと秋田の昔話 目次へ |