30 狐むかし― 山伏狐―むかしあったけじも。あるところに山伏いだっけずも。ほの山伏は、ずうっと旅して歩っていたどころが、ちょうどあるところまで来たば、狐ぁ昼休びしったけじも。んで、山伏はいたずらして、ほら貝、眠ってだ狐の耳さ押っつけで、ボォーッと吹いだずも。ほうすっど狐ぁ、魂消て、目覚まして、ぴょんこぴょんこど逃げて行ったずま。 そうすっど、その格好がおかしいずうもんで、山伏は大笑いしたずもよ。 ところがそっから、山伏、ちいと歩いで行ったらばよ、まだ昼飯(ちゅうはん)にもなんねずば、暗くなったずまよ。真暗になってしまって、何にも見えねぐなってしまったずまよ。 「いや、なんで、真暗になって困ったもんだ。どさか泊っどこあんめえか」 と思って、あっちこっち探(た)ねで見たば、そうしたば、向うの方に灯り、ぽかっと見えっけど。ほんならそこさ行って泊めてもらうかなぁと思って、行ったど。ほして行ってみたば、家一軒建ってだけど。ほんで戸叩いて、 「ほんじゃ、真暗になって歩かんねし、一晩げ泊めておくやい」 というたど。ほしたばその家の旦那出はってきて、 「実は、おら家、われげんども、家のばっちゃ死んだばりなもんだから、これから荼毘の仕度に、ちぇっと買いものに行ってこんなねし、誰もいねぐなっから、死人ばりだから、泊めらんね」 「死人ばりだてええから、泊めるばり泊めてけろ」 というたど。んで、「ほんじゃ、ええごで」というて、泊めて呉だけど。ほして、一人こで、置がっじぇ、ほしてほの旦那は買いものに行って居なぐなったずもよ。ほうすっど、囲炉裏さ火焚いで、ほうしていたずもよ。ほしたら焚きものもあんまりなくて、芋殻(おのがら)少しあるぐらいなもんでよ、その芋殻も二、三本しかなぐなったずもよ。 「これ、燃えつきっどはぁ、真暗になって灯(あかし)もつけるべくもないし、困ったもんだ、こりゃ」 て、おしみおしみ燃やしったど。だんだん芋殻もなくなって、一本しかなくなったど。見たらば、ちょうど脇さ死人寝っだけずも。たった一本の芋殻もやして見っど、その死人は、むくっと起きてきたずも。ほうして枕元さ飾ってだ団子つかんで、もぐもぐ、かぱかぱと食うじも。恐っかなくて恐っかなくて、山伏はふるえっだじもよ。ほうすっどまた、団子つかんで、もぐもぐと食うずも。 ほうしたば、団子なくなったば、こんど死人のばんばよ、 「山伏、とって食うぞぉ」 て、来たじも。いや、山伏はたまげて、わらわら外さ出はって逃げだじも。ほうすっどその死人のばんばよ、 「山伏、待(ま)じろ。とって食うぞ」 て、追っかけて来っこんだじも。ほうすっど、こんど恐っかなくて逃げだば、川端さ来たずもよ。道なくなって逃げんべくないぐなったもよ。と、そこに大きな木あるもんだから、木の上側さ登ったじも。ほうすっどピタリピタリと登ったば、死人もピタリピタリと木登って追っかけで来て、 「山伏、待じろ」 て来っずもよ。ほうすっど、「うっ、恐っかない。うっ、恐っかない」て、だんだん芯ぽえの方さ登ったば、ほうしたば細こくなったもんだから、木折(お)しょって、ボキンと叩き落っで、木の下さはたき落さっだじも。山伏は。 はたき落ちてみたらば、真暗だったな、いっぺんに明るくなって昼間になって見たば木の下さ、さらえ転(ごろ)んでいたけずも。して、化けものはいねくて、狐に化やかさっでいたなだけど。んだから狐さざぁ、いたずらするもんでねぇけど。どーびんと。 |
井上てい |
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