29 行けざんざん

 むかしあったけじも。
 むかし、じんじとばんばいだっけど。じんじとばんば病気になって、ほして寝てしまったけど。と、息子二人いだっけど。兄(あん)にゃど舎弟ど。
 じんじとばんば、あんばい悪くなって、「梨食だいなぁ」と言うたけど。ほして、「梨実ってだどこあっから、ほさ行ってもいで来てくろ」て頼んだど。
 ほうすっど、兄にゃの方は、
「おれ行って、もいで来っから」
 と言うたど。ほうすっど、じんじとばんばはよ、
「行く途中に、藤つるあって、その藤つる引張って、そいつ、ひった切らんねごんだら戻って来いよ。それから、ひった切られっどき、なおそっちゃ行って、行くどこんど滝あっから、滝のどころで耳すまして聞いでっど、
    行けざんざん行けぇざんざん
 ていうとき行ってええし、
    行ぐなざんざん行くなざんざん
 ていうときは、行かねで、戻ってこいよ」
 て、教えらっじゃど。ほんで兄にゃが出かけて行ったど。ほして行ったところが、やっぱり太い藤つるあっどさ、ぶっつかったど。ほして藤つる引張ってみたげんども、なんぼ引張っても切んねがったどなぁ。ほんじぇ、切んねぇがら戻ってこいて言(や)っだげんども、じんじとばんばさ梨食せっだいもんだから、行ったじも。
 ほしたらば滝あっけど。ほして、耳すまして聞いっだらば、
    行くなざんざん、行くなざんざん
 ていうけずもよ。んだげんども、じんじとばんばさ、梨食せっだいもんだから、行ったじも。ほして行って梨の木さのぼって梨もぎ方しったれば、化けもの出はってきて、ほうして追かけらっじゃずも。ほうすっど梨の天ぺんまで登って逃げだげんども、追っかつがっで、パクッと呑まっでしまったど。化けものに。
 ほうすっど、じんじとばんば、なんぼ待っででも兄にゃ戻って来ないもんだから、んなもんだから、舎弟んどこさ、
「梨もいで来てけろ」
 というたど。舎弟も藤つるの話と行げぇざんざんの話と教えらっじぇ出かけたど。ほして出かけて行って見たところが、藤つる、やっぱりあったけずもよ。ほして藤つる引張ってみたれば、ほうしたらば、藤つる、バサッともぎっで切っで来たけずもよ。ほれからこんど行ったば、滝あっけずもよ。滝、耳すまして聞いっだらば、
    行げぇざんざん行けぇざんざん
 ていうけずもよ。ほれから舎弟は出かけて行って、行ったらば、梨の木あっけずもよ。梨の木さ登って、梨もぎしったらば、化けもの出はって来たずも。ほうすっど舎弟はよ、梨の木がら降ちて、化けものと戦ったずもよ。化けもの退治したずも。
 ほうして、刀で化けものの腹、バァンと切ったらば、呑まっじゃ兄にゃ、ひょこっと出はって来たけずもよ。生きて。ほして兄にゃと行き会ったずもや。それから大喜びして、その梨いっぱいもいで、兄にゃと舎弟と二人で一背負い背負って、ほうして家さ戻ってきて、じんじとばんばさ食せだけど。どーびんと。
井上武夫
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