20 猿聟

「おれぁ、娘三人持った。どれでもええから、一人呉れっけんども、この火野(かの)うなってける人あらば…」
 て、その山さ行って、火野刈りしったど。そしたらば、山から猿ぁ、ガサモサ、ガサモサて出てきたずも。
「じんつぁ、じんつぁ、いま何語った」
「あんまりこわいから、娘三人持ったから、どれでも一人、この火野うなって呉っじゃば、呉れるて、おれぁ、一人口立ったどこだった」
 ていうたど。
「ほんじゃ、おれ、うなってける」
 ていうけぁ、猿ぁ、ちょこちょこ、ちょこちょこと、じじがうなうべきどこ、ちょこっとうなって呉れたど。
 是非(ずし)とも呉んなねぐなった。
 そうせば、家さ来て、じじ、飯も食ねで寝っだどはぁ。娘もらいに猿くるもんだから、そうして寝っだどこ、一番大きい娘、
「じんつぁ、御飯だぞ」
 てきた。
「にしゃだ、食ってろ、まず」
 こんどぁ、二番目娘ぁ来たど。
「にしゃだ食ってろ。おれ、火野うないで、疲れて、飯食(く)だくない。食ってろ」
 こんどは三番娘、おこしに来たど。
「おれ、今日、火野うないひどくて、娘三人持ったな、どれでもええな、呉れるて、猿さいうたもんだから、娘もらいに来るていうなだ、まず」
 て、こう言うたど、その娘さ。
「ほんでは、おれ、猿さ嫁に行んから、起きて飯食ってけろ」
 ていうたど。そしてじじは起きて飯食ったれば、来たずま。猿ぁ。そうしてはぁ、もらって行ったずだ。
 三番目の娘は、山さもらわっで行ったもんではぁ、子どもも出だずもはぁ。そしてこんど三月節句のあたりに、じんつぁどさ、餅搗いて背負って、お礼に行かんなねんだて、二人ではぁ、おかた、赤子(んぼこ)おぶって、
「おら家のじんつぁ、餅なの、重箱さなの入れっど、重箱くさいなて、食ねしな、まず」
 ていうたど。
「何さ入っでぐ、鍋ちゃ入(い)っで行くが」
「鍋くさいて食ねしなぁ」
 て、その娘ぁよ。
「ほんじゃ、仕方ないがら、臼がらみ背負って行かんねべちゃ」
 猿ぁ、臼背負ったずも。そうして臼がらみ背負ったど。そうして見たらば、川端さ、美しい桜の花咲いっだど。
「あれ、なんぼうれしいがんべ、あの桜の花取って行ったらな、じんつぁ」
 ていうたど。
「ああ、造作(じょうさ)ね。おれ取ってくる」
「向うの竿のええな、ええもんだ」
 だんだえ登って、猿さ臼背負っでだもんだから、バェンと川さ落っでしまった。ほして死んでしまったど。そういう利巧な娘だけど、三番目の娘ぁ。そして娘ばり行ったごではぁ。
「どこまで行った、どこまで行った」
 て、臼背負って、プクプク、プクプクて、桜の木持って、泣いっだけど。死んだごではぁ、猿ぁ。
岡田さん
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