15 うたう猫むかしあったけずも。むかし、落合のある家に、年寄ったばっちゃいだけど。んで、その家には、年取った猫飼って、可愛がっていたそうだ。ところが落合さ、よく祭文語りきて、して、祭文語って、祭文語り来っど、「聞きにこい」というもんだから、そこの家の人、家中みな祭文語り聞きに行ってしまって、ばっちゃ、年寄りなもんだから、たった一人残さっじぇ、ほして留守居しったけど。 ところが、ばっちゃ年寄って、残さっで留守居させらっじゃもんだから、 「おればり、こりゃ、祭文聞くべきない、困ったもんだ、こりゃ、おれも聞きたいげんどもなぁ」 て、囲炉裏ばたで一人ごと語ったらば、年取った、大事にして飼ってだ猫が、いきなり人の声で喋りはじめたど。 「ばっちゃ、ばっちゃ、おれ祭文語って聞かせっか」 て言(ゆ)ったけど。ほうすっど、ばっちゃ、たまげて、 「なえだ、お前、祭文語られんなが」 て言うたどころが、 「語られる。語って聞かせっから、その代り、おれ祭文語ったって、誰さも言うなよ。誰かさ、このこと言うど、生きていらんねぞ。命なくなんぞ。んだから、決して言うなよ。言わねど語って聞かせっから」 て言わっじゃど。 ところがばっちゃは、「あまえ、ええ。言わねから聞かせろ」と言ったど。猫はさっそく祭文語りはじめたど。 デロレン、デロレン、デロレン、デロレン ばっちゃは「おもしゃい、おもしゃい」て、一生懸命で聞いっだわけだ。 ところが、そこの家のばっちゃの息子で、家の旦那が、途中で用事思い出して祭文聞きしったの止めで、家さ戻って来たど。ところが、家の前まで来たらば、われ家の中で祭文語るような音聞えるものよ。デロレン、デロレンて、誰か一生懸命で祭文語っているもの。 「はて、おかしいな、ばっちゃしかいねなに、誰、祭文語りしったべな」 ど思って、ほうして家さ入って行ってみたば、猫はたまげて、パッと祭文語りやめて、知しゃねふりして囲炉裏ばたさ、ごろんと寝転んで知しゃねふりしったど。そうすっどそこさ家の旦那入って来て、 「ばば、ばば、今祭文語ったな、誰だ」 というたど。したば、ばば、言うなて猫に教えらっでだもんだから、 「誰も祭文なて、語んねぜ」 ていうたど。と、 「ほんなごど語ったたて、わかんねごで。おれ、ちゃんと聞きつけだも。ちゃんと祭文語んな聞いたもの、誰だ、祭文語ったな」 て、息子はあんまりおどしたもんだから、ばっちゃはとうとう、耐(こた)えらんねぐなって、 「実は、ここにいた猫は語ったもんだ」 ていうてしまったど。ほうしたれば猫ぁごしゃえで、いきなりバァッと飛びかかってきて、ほうして喉笛かき切って、逃げて行ったど。ばばぁは死んでしまったどはぁ。ほんで荼毘(だみ)出ししんなねぐなって、して荼毘出したど。 ちょうど荼毘に、葬列がずうっと葬場さ通って行ぐどき、それまで大変ええお天気だったげんど、急にお天気わるぐなって、お雷ゴロゴローッ鳴りはじめで、ピカピカーッと光って、急に荒れてきたもんだから、魂消て雨具も用意していねがったがら、大さわぎしたど。 ところがその雲の中から猫股出てきたずも。猫股ていう猫の化けもの。ほうしてその猫股が棺のふたあけて、婆んばの死骸、ぐうっと持って、ほうして空ささらって逃げて行ってしまったどはぁ。それからは落合の部落では、なんぼええ天気に葬式出でも、葬場さ向うときには、必ず雨降りで大あらしになっかったど。その猫股のたたりで。んだから、猫のいうことは聞かんなねもんだど。どーびんと。 |
井上武夫 |
>>たかみねと秋田の昔話 目次へ |