12 鯖売り(牛方と山姥)

 鯖売り、山の中通って行ったらば、鬼婆出はってきたのよ。そして、
「鯖一匹呉ろ、鯖一匹呉ねど、にし..取って食うぞ」
 ていうもんで、「ほら」て、一つ呉れ、二つ呉れして、なくなりそうになったれば、古い家あっけど。そさ上がって、二階さ上がってみっだれば、そさ入って来たけて。
「こんなとき、餅でもあぶって食うべ」
 て、餅あぶって食うべと思って、大ワタシさ餅あぶって、そのうちに眠ぶったごんだけな。
 そのうち、青(お)芋(の)殻(がら)で、二階から刺しては、取って食い、刺しては取って食いしたれば、鬼婆、
「あぶっじゃべ」
 て、目さましたれば、さっぱりない。こんど、
「酒でも温めて飲むべ」
 て、酒温めしたれば、「温まったべ」なて起きてみたれば、ない。これも酒、天井から葭杖で、みな吸ったのよ。
「酒もお不動さま、上がったべ。こんな時には寝んべ」
 そうして、
「石の唐戸か、木の唐戸か」
 ていうたれば、「木の唐戸」ていうたど、二階で。
「ほんじゃ、木の唐戸さ入って眠んべ」
 なて、眠て、そして、いびき音するもんだから、こんど降ちて来て、錠しめて、火つけたもんだけな。焼けた跡から出たの、古狸であったけど。
井上まこ
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