37 船坂新兵衛

 笠、胸にあてて走っど、落ちねほど早がったど。福島まで一夜で行きかえりし て泥棒してきたそうだ。
 ここに、馬場数衛さまという家あって、そこの破風に三日三晩泊ってだそうだ。 二間半に四間もある大きな破風で、大黒柱がさしわたし三尺あったていう家だっ たど。いろりが一間四方で、そこに焚く柴は一束ずつ、ほぐさねぇで焚いたもん だていうんだな。
 新兵衛は三日三晩、その破風さかぐっででいたげんど、とうとう何も盗らんね くて、数衛さまのご新造さまが髪とかしてでな、その鏡さ写って、見つけらっで しまったど。
 新兵衛は船坂というどこに住んでいたが、捕り方が行って、
「新兵衛いるか」ていうど、「はい」ていうて、何時行ってもいっから、泥棒した ていう証拠もないていうんだ。
(中和田・我妻栄一)
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