13 智恵くらべ

 大金持がいて、そこで何十人も人使ってあったそうだ。
 ある日、旦那さんが使っている若い衆を全部、呼んでよ、そして、
「お前だが希望してるものは、何でもやるから、のぞみのものを話してみろ」
 そうすっど、みんなてんでに、
「ここの家の一番とええ膳椀で食事してみたい」
 そういうことを言うてみたり、
「箕さいっぱいのお金欲しい」
 いろいろな注文が出たど。
 その一番下働きの若者が、
「ここの家のむこさんになりたい」
 そうすっど、旦那さんが、一旦口出したんだから、何ていうたて、望みかなえ てやんなねから、一人一人に、みなかなえだげんど、その聟さんになりたいとい うのだけは、困ったもんだ。娘さんが承知しなくては。
 んだげんども、一旦、するといった以上は、昔のことだから、させなくてなん ねぇし、そしていよいよ結婚式ていう場面になったら、三々九度の盃に始まろう としたら、お嫁さんが白装束になって、
   天より上に咲く花に
    よくも思いかけたぞ杢蔵野郎
 ていうたそうだな。
 ほうすっど、聟さんはさすがに、すぐに、返り歌詠んだって。
   天より上に咲く花も
    落ちれば下の杢 (もく) となる
 そうすっど、その嫁さんはびっくりして、
「人は見かけに寄んねもんだ。やっぱりここの聟になるていうぐらいの人は、そ れだけの力があるんだ」
 と思い返して、めでたく一緒になったど。どーびん。んだがら、人間て見かけ によんない。なんぼ下に働いていてもなぁ。
(佐沢・武田はる)
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