11 桃太郎

 むかしむかし、あるとこになぁ、じじとばばがいだったど。
 じじは山さ柴伐りに行って、トカントカンて柴伐りしったけど。ばっちゃは川 原さ洗濯に行って、コチャコチャ、コチャコチャて、一生けんめいでしったら、 山の方から大きい桃、赤いなど白いなど流っできたけど。
 ほしたら、ばっちゃが見て、ほして、
   赤い桃ぁ こっちゃこい
   白い桃ぁ そっちゃ行げ
 て、赤い桃来たら、おばぁちゃんの方さ、赤い桃ぁズンボコ、ズンボコて流っ て来たもんだから、そいつをこんどは、ばっちゃ手伸 (の) べで拾った。
「ああ、こだな大きな桃、まず、どっから流っで来たんだが。早くじっちゃどさ 行って、分けて食うべ」
 て、持ってきたど。ほしてこんど、家さ来て、俎板の上さあげて、包丁で割ん べど思ったば、一人こで、パカエンと割っじぇ、それから、オギャエ、オギャエ ていうもの、赤ン坊が出てきたど。
 じっちゃとばっちゃ、子どもも居ねんだから、
「桃から生まっじゃがら、ほんじゃ桃太郎と名付けんべな、じじちゃ」
 て、そして桃太郎と名付けて、乳もないし、何もないもんだから、甘酒を作っ たり、おかゆを煮たり、食べさせて、
「大きくなれ、大きくなれ」
 て、毎日食べさせっだど。ほしたら、だんだえに大きくなって、こんど兄んちゃ ぐらいになって、大きく育ったど。
 あるとき、
「じっちゃ、ばっちゃ、大きくなって、今までの恩返しに、鬼が島さ鬼退治に行っ て、悪 (わ) れべがぁ」
 て、じっちゃ、ばっちゃどさ言うたど。
「鬼退治などはぁ、ええどこでないから、ほんじゃ、悪い者征伐してこいよ」
 て、やったていうわけだ。ほして、その途中、腹減っど悪 (わ) れがら、
「んじゃ、キミ団子、拵って食せっから」
 て、キミ団子拵って、じっちゃとばっちゃ、パカンパカンと叩 (はた) いて、そして粉 にして、丸めて、キミ団子いっぱい拵えで、袋さ入っで腰さ下げで、桃太郎ぁ行っ たど。
 そしたら、途中まで行ったら、ワンワンて、犬に会ったど。そして犬は、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どこさござる」
「これがら、おれは鬼が島さ鬼退治に行くどこだ」
「その腰に下げっだな、何ですか」
 て聞いだば、
「これは日本一のキミ団子どて、一つ食えばうまいもの、二つ食えば辛いもの、 三つ食えば苦いものだ」
「ほんじゃ、おれちゃ一つください。お伴すっから」
 犬が一緒になって、犬連れて行ったど。
 そして少しおもって、山ささしかがったらば、山の中から、ブーンと飛んでき たものいたがら、何だと思ったれば、キジがちょこんと前さ出て、そして、
「桃太郎さん、桃太郎さん。どこさござっどごだ」て。
「犬ば連れて、鬼が島さ鬼退治に行くどこだ」
「そのお腰につけたもの、何 (なえ) だ」
 そしたら、
「これは日本一のキミ団子どて、一つ食えばうまいもの、二つ食えば辛いもの、 三つ食えば苦いもんだ」
「一つください、お伴して行んから」
 て、行ったど。また少し行ったら、猿がキャキャ、キャキャていたど。そして 猿にもそのとおり、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どこさ行ぐ」
 て、「おれもお伴して行かせてください」て、三人連れて行ったていうわけだ。
 ほして、鬼が島さ行ったところが、青鬼なの赤鬼なのいっぱい居で、ほして、
「何しに来た」
 つうもんで、掛かったげんども、桃太郎さんと三人、かぶつくやら、みな鬼退 治してきて、鬼降参して、
「これから、桃太郎さんの言うこと何でも聞くし、宝物は全部お上げしっから、 どうか勘弁しておくやい」
 て、青鬼から赤鬼から、全部膝まづいていうたもんだから、桃太郎さんが、
「んだらば、勘弁してやっから、これから決して悪いことするでないぞ」
 て教えて、宝物全部、車さつけて、そして、エンヤラヤ、エンヤラヤて、犬が 引き出すエンヤラヤ、キジが綱引くエンヤラヤ、猿が後押すエンヤラヤて来て、 じっちゃとばっちゃを安態に、恩返しして暮したけど。
 どーびんさんすけ、さるまなぐ、さるのまなぐさ火ぁ入って、けんけん毛抜き で抜いだれば、まんまんまっかな血ができた。
(川原子・鏡みやる)
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