34 ドッコイショむかしむかし、お観音さまもお仁王さまも同列同級、同じ神さまであったど。ところが非常にお仁王さまが力が強いんで、お観音さまからおかしくていらんねがったど。ある時、日本にはもう力くらべする人はいない、明(みん)の国さ行って力くらべすんなねと、こういうわけで、支那の国さ行って力くらべする挨拶にお観音さまさ行った。したば、 「仁王さま、仁王さま、はいつぁええ、武者修行ええげんども、お前さ、おれ贈りものしてやる」 て言うわけで、何だと思ったらば、ヤスリ一つ贈ってやった。 「何だ、こだなつまらねもの呉てよこしたもんだなぁ」 と思った。ところが支那さ行って、舟で漕いで行って、ある部落に辿りついて、 「おれは日本の仁王ていうもんだ。まあ、おれど力くらべする人、ここらにいねべか」 「お前どだらば、あそこのドッコイショという人だら、お前以上だと思う。ほこさ行って申込んでけらっしゃい」 「何村だ」 ていうわけで、ずうっと行ったところが、その家さ辿りついた。まさしくその家は大きい家だった。ほしたらそこに大きいかぁちゃんがいて、 「ははぁ、よくわざわざ東の国から来て呉(け)だ。まもなく家(え)のドッコイは帰ってくっから待ってらっしゃい」 ほして、さしわたし三間もあるようなお釜さ飯炊いっだ。クタクタ、クタクタ。 「ばんちゃ、ばんちゃ、この飯(まま)は何人して食うもんだ」 「こいつぁ、おらえのドッコイ一人して食うのだ」 「はぁ、ほうか、裏にある一間半ばりあるワラジ…」 「こいつぁ、ドッコイの舎弟。ドッコイはまだまだ大きな履く」 ぶっ魂消た。こんどぁ、 「ちぇっと来ねもんだか」て言うど、「うん、ドッコイは七里半先さ来っどはぁ、地ひびきすっから分る」 ほんではとってもかなわねと思ってはぁ、お仁王さま尻尾まいて逃げたど。ほして舟さのってはぁ、一生懸命漕いだれば、大きい声で、「日本の仁王待てろ」て、すばらしい声で追かけて来たって。そしたら何だかこう地震みたいな、ドンドン、ドンドンて地ひびきする。舟で一生懸命漕いだ。そしたらモリさ鎖ついっだな、ぶん投げてよこして舟さ引掛けられで、ぐいぐい、なんぼ漕いでも引寄せらっだ。 「ほんでは何とも仕様ない」 ほんどきはっと思い出したのが、お観音さまにもらったヤスリ思い出した。そいつで一生懸命鎖ば切って、いま少しで手届くところまで行ったとき、ヤスリで鎖が切っで、漕ぐなど引張るなの反動で、バーンと日本さ帰って来たったど。ほして、 「やっぱりおれが一番だと思ったらば、世界中にはどれぐらい力のある人居っかわかんない。それから力ばりでは分んない。やっぱり頭もいるなだ」 ていうわけで、その日から一寸八分のお観音さまのお弟子になって、門番になったどはぁ。丈余の仁王さま、一寸八分のお観音さまの門番になってしまったど。そしてまた支那から追かけて来っどなんねぇから、ドッコイショのワラジは四間あっけから、五間か六間のワラジ作っでもらって海辺さ並べっだど。んだど、 「日本にはおれよりまだ大きい人いだに相違ない」 て戻って行くだろうと、そいつ海辺さ置いて呉らっしゃいて、庶民がお仁王さまさワラジ納めるんだど。 それから重たいもの背負ったときは、お仁王さまよりえらい一番力持ちの人の名前呼ぶど。軽いように「ドッコイショ」ていうど軽く背負えるような、起っどきなど、「ドッコイショ」て掛声すんのは、そういうどっから来たんだって、昔の人はいう。ドンピンカラリン、スッカラリン。 |
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